出版社内容情報
「サンカ」とは、日本に存在していた〈漂泊民〉です。「サンカ」につきまとうイメージは、ある時は古代からの伝承を伝え独特の「サンカ文字(神代文字)」を使う一群の人々であり、ある時は山野を疾駆する漂泊の民であり、また、ある時は警察を出し抜く犯罪者集団……、など様々です。しかし、近代以前からの「制外の民」としての「サンカ」像には、さまざまな疑念がつきまとっています。柳田国男、鷹野弥三郎、荒井貢次郎、宮本常一から三角寛といった人々にいたる「サンカ」研究を網羅、解説しました。「サンカ」という言葉を初めて聞いた人から、「サンカって、どうもよく分からない…」という人まで、恰好の入門書です。
まえがき
【序章】なぜ今「サンカ」なのか
◯1 サンカブームの原点
◯2 ブームの背景
◯3 あくまで現実的に
【第一章】サンカとは何か
◯1 サンカの定義
◯2 サンカと山窩
◯3 サンカの語源
◯4 浜田県の「サンカモノ」
◯4 浜田県の「サンカモノ」
◯5 安芸国竹内家文書の「サンカ」
◯6 喜田貞吉のサンカ語源考
◯7 サンカは自称にあらず
【第二章】サンカと犯罪
◯1 警察用語としての「山窩」
◯2 山窩の女王・雷神のお玉
◯3 「山窩ノ犯罪」
◯4 山窩の犯罪手口
◯5 サンカの「歴史民俗学」
【第三章】サンカ研究者としての柳田國男
◯1 初期柳田のモチーフ
◯2 「イタカ」及び「サンカ」
◯3 「所謂特殊部落ノ種類」
【第四章】柳田國男と鷹野弥三郎
◯1 鷹野弥三郎と『山窩の生活』
◯2 礫川のサンカ近代発生説
◯3 「閼伽出甕」のサンカ近代発生説
◯4 山本崇史氏の視点
【第八章】三角サンカ学について
◯1 新聞記者から小説家へ
◯2 山窩小説の意味
◯3 サンカの学問的研究へ
◯4 三角サンカ学の特徴
◯5 三角寛の再評価をめぐって
◯6 最後のサンカ集団
【第九章】沖浦サンカ論を読む
◯1 『竹の民俗誌』とサンカ
◯2 『サンカ社会の研究』解題
◯3 中国地方でサンカ古老に取材
◯4 「漂泊に生きた人々」
◯5 「サンカ」という呼称をめぐる問題
◯6 まぎれもなく「サンカ」
◯7 「サンとしてのカミングアウト」(!?ネット「サンカ」案内
◯1 活気あふれる熊野ライフ
◯2 伝統の閼伽出甕
◯3 在野精神を誇る野史研究会
◯4 目森一喜氏のサンカ論
◯5 毎日新聞「記者の目」に見る「最後のサンカ」
◯6 説教強盗異聞
◯7 その他、サンカに関する情報
あとがき
サンカとは何か。
ある時は古代からの伝承を伝える一群の人々であり、ある時は山野を疾駆する超人的パワーの持ち主である。またある時は警察を出し抜く特異な犯罪集団である。
しかし、結局の所、これらサンカ像は、現実に押しつぶされた現代人がサンカに仮託した「虚像」に過ぎないのではないか。
人々は自らの渇望に基づいて、勝手なサンカ像を創り出しているに過ぎないのではないか。サンカが既に過去の存在であることを十分知りながら。
* * *
右は、十年以上前、『サンカと説教強盗』(一九九二)の冒頭に記した言葉である。二十一世紀に入った今日、「サンカ」に対する人々の関心が高まっている。しかし私は、右の言葉をもう一度繰り返すしかない。「サンカ」の実像を追う以外に、「サンカ」の研究というものは、ありえないと思うからである。
一九九四年に今井照容氏は、「サンカ」について次のように述べていた(雑誌『マージナル』終刊号)。
〈サンカという「対象」〉は何故にこうも不明瞭なのか……。/私たちなりに仮説を提起することができるだろう。〈サンカという「対象」〉が不明瞭なのは、固定した場所を舞テーマになるかもしれない。
さて、今回、この『サンカ学入門』を書くにあたって、柳田國男のサンカ論を通覧すると同時に、吉本隆明氏の『共同幻想論』(一九六八)も再読してみた。そして、今ごろになってではあるが、一つ重要なことに気づいた。それは同書が、柳田國男の『遠野物語』と三角寛の『サンカの社会』とを比較対照しているということである。
〈サンカ〉のように耕作しないで、移動手業につき、野生物や天然物に依存することのおおい生活民を想定すれば、まったく別個の時間認識が得られる。三角寛のすぐれた研究『サンカの社会』によれば、〈サンカ〉の共同体では、現在の夫婦を一として、五代前の高祖父母は〈テガカリカミ〉と称する生神様とかんがえられ、生きていればその子孫はもちろん、所属の共同体のものは当番で三日目毎に献食をはこばなければならないと記されている。ここでは〈他界〉は、個体の〈死〉の延長にえがかれる時間性である。また、したがって一定の年齢をこえた老人たちが捨てられてゆくこともないかわりに、老人たちは婚姻してから死ぬまで自営して〈他界〉に自然に移行するとされている。この特異な共同体の内部では、〈死〉はたんに個体の心的な時切り取られ、不当に変形された「現代の民話」に過ぎないのではないか。それが言い過ぎだとしても、柳田が手を加えた『遠野物語』はあくまで「物語」であって、「根本資料」とは呼びがたいのではないか。いずれにせよ、その『遠野物語』と、評価の定まらない『サンカの社会』を材料にして語られる〈共同幻想〉論は、思想的ワク組みとして、本当に有効だったのか。
一九七〇年前後において、この本が当時の若者に与えた影響力は絶大なものがあった。その後の柳田ブーム・遠野ブーム・民俗学ブーム・サンカブームは、この本の影響力なしには考えられない。先の今井氏の「“非・場所”性」という言葉にも、私は、『共同幻想論』の臭いを嗅ぎとる。
一九九二年に『サンカと説教強盗』を書いた時、私としては柳田の呪縛や三角の呪縛からは脱したつもりでいたが、今回『共同幻想論』を読んでみて、『遠野物語』の呪縛や『共同幻想論』の呪縛に対しては無自覚だったことに気づき、愕然とした。この『サンカ学入門』を書くことで、ようやくそうした呪縛から逃れられたように思うが、決して解放感はない。むしろ、不快感にも似た気持ちを拭いされない。それは、これほど長く〈それ〉に呪縛されていた自
●前代未聞の「サンカ学叢書」全5巻、いよいよ刊行開始!
*ブックデザイン=臼井新太郎
*組版=字打屋/批評Design
内容説明
「サンカ」とは、日本に存在していた“漂泊民”である。「サンカ」につきまとうイメージは、ある時は古代からの伝承を伝え、独特の「サンカ文字(神代文字)」を使う一群の人々であり、ある時は山野を疾駆する漂泊の民であり、また、ある時は警察を出し抜く犯罪者集団…、など様々だ。しかし、近代以前からの「制外の民」としての「サンカ」像には、さまざまな疑念がつきまとっている。柳田国男、鷹野弥三郎、荒井貢次郎、宮本常一から三角寛といった人々にいたる「サンカ」研究を網羅、解説。「サンカ」という言葉を初めて聞いた人から、「サンカって、どうもよく分からない…」という人まで、格好の入門書。
目次
序章 なぜ今「サンカ」なのか
第1章 サンカとは何か
第2章 サンカと犯罪
第3章 サンカ研究者としての柳田国男
第4章 柳田国男と鷹野弥三郎
第5章 サンカと下層民
第6章 サンカの漂泊性と被差別性
第7章 サンカ近代発生説
第8章 三角サンカ学について
第9章 沖浦サンカ論を読む
終章 再びサンカとは何か
著者等紹介
礫川全次[コイシカワゼンジ]
1949年生まれ。ノンフィクションライター。歴史民俗学研究会代表
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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