出版社内容情報
自ら銃殺刑を求めた殺人犯の実弟が、血の絆、傷つけられた子ども時代、家族の秘密をたどりつつ、魂の再生を求めた鮮烈な問題作
内容説明
76年夏、運命の日が訪れた。殺人。判決は死刑。兄は銃殺刑を求めた。その恐怖の世界を抜け出すための手だては、たったひとつしか残されていなかったのだ。刑執行を数日後にひかえた兄との対決、母の死、長兄の失踪…そして最後の秘密が暴かれる。家族のゴーストと向きあいつつ、「クロニクル」は救済と新たな絆を求めて完結する。
目次
第4部 ある種の人々の死にざま(丘の上の家;あるセールスマンの死;レクイエム;武装強盗事件;離散する家族;それぞれの帰還;反抗;歩く死者)
第5部 血の歴史(ターニング・ポイント;高名なる殺人者;最後の言葉)
第6部 涙の谷間に(家族の最期;新しい家庭、古い幽霊;秘密と骨と;故郷からの手紙)
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
469
手に取ったら止めることができなかった。春樹さまの翻訳も筆がノってきている。下巻ではギルモア家内の風景が変わったことに読者は気づくだろう。経済的に豊かになり、理不尽な暴力が減り、家族でクリスマスを祝ったりもする…とはいえそれは破滅への始まりだったのだ。ラストがわかっているだけに、最後まで暗鬱でやり切れない読書なのだが、それでもやはりベッシーやフランク・ジュニア、マイケル、そしてゲイリーにさえ一抹の光を見つけてしまう。蛇足だがNikeの「Just Do It」は、ゲイリーの最後の言葉にインスパイアされたそう。2024/08/06
ヴェネツィア
137
現代のアメリカで、多くの教会は老人たちが集うだけであり、それは日本もまた変らない光景だ。しかし、本書を読んでいると、まだまだアメリカの精神風土の底流には宗教が力強く根をおろしていることがわかる。仮釈放中にも関わらずゲイリーは罪のない、しかも自身には全く無関係な2人のモルモン教徒の若者を殺害した。それはやはり彼らの母、ベッシーがユタの生まれであり、モルモン教徒だったことが大きな意味を持っていたのだろう。死刑を宣告されたゲイリーは銃殺刑を選ぶが、そこにはやはりモルモンの「血の贖い」の意識があったのだろうか。2014/08/24
ムッネニーク
112
67冊目『心臓を貫かれて 下』(マイケル・ギルモア 著、村上春樹 訳、1999年10月、文藝春秋) 死刑囚ゲイリー・ギルモアの実弟が描き出す呪われた一族の年代記、ここに完結。ページ数・内容ともに凄まじいボリュームの力作である。 「家族」の素晴らしさを説く物語が世間に溢れかえっているが、それが孕んでいる恐怖の側面を決して無視してはいけないことを本書は教えてくれる。 「いつもそこには父親なるものがいる(There will always be a father)」2023/06/16
優希
88
やりきれない家族の物語が続いていきます。いや、物語ではなく現実の出来事なんですよね。殺人という運命の日。そこから流れるように運命は破滅へと向かうように思えました。家族の闇のクロニクルは、両親が描く方向へと導いたことが明らかです。その自覚がないからこそ、破滅の中からの救済と絆を求めていくのかもしれません。2018/05/28
優希
47
運命に流されるように悪夢の日々へと向かい、遂に運命の日を迎えます。そこからは破滅へと導かれるしかなかったのでしょう。闇のクロニクルは、両親が描いた道標を歩んでいることに思えました。救済と絆を求めるように収束するクロニクルですが、鳥肌が立つほど恐ろしいものでした。村上春樹さんの翻訳も素晴らしいです。2022/05/01