出版社内容情報
武田泰淳氏に絶賛された処女作以来、十五年の沈黙を破って発表され、泉鏡花賞を受賞した第一作品集。色川文学の出発点を示す
内容説明
私が関東平野で生まれ育ったせいであろうか、地面というものは平らなものだと思ってしまっているようなところがある―「門の前の青春」。亡くなった叔父が、頻々と私のところを訊ねてくるようになった―「墓」。独自の性癖と感性、幻想が醸す妖しの世界を清冽に描き泉鏡花賞を受賞した、世評高い連作短篇。
目次
空襲のあと
尻の穴から槍が
サバ折り文ちゃん
したいことはできなくて
右むけ右
門の前の青春
名なしのごんべえ
砂漠に陽は落ちて
とんがれ とんがり とんがる
ふうふう、ふうふう
タップダンス
見えない来客
墓
月は東に日は西に
スリー、フォー、ファイブ、テン
また、電話する
たすけておくれ
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
69
これエッセイ?小説? これまでの色川作品にない独特な肌合いです。10頁ほどの一話一話に起承転結があって、おもしろいです。明日から大相撲九州場所が幕を挙げるので、大相撲の話を紹介します。たぶん、皆さんが生れる以前になるので馴染みはないかもしれませんが…。当時小学生で相撲ファンだった私には、のっぽの大内山など懐かしい力士がぞろぞろと出てきます。場所は、いまの立派な両国の国技館ではなく、川向こうの蔵前にありました。この蔵前国技館へは、母のおにぎり2個もってよく通いました。色川さんも相撲が大好きだったようです。2024/11/09
ω
52
味わい深いなぁ〜ω 色川先生の周辺に現れ、通り過ぎて行った人びと。町で出会うちょっと変わった人たち「名なしのごんべえ」父と墓を探しに故郷へ戻る「墓」先生の胆石手術記録「たすけておくれ」 この辺りはまた読みたいω2022/03/05
キジネコ
52
面白い本です。泉鏡花伝に触発されて本棚サルベージで再会。何気に向田邦子さんの文章を思い出していました。柔らかで独特のリズム…大変心地よい読書で、調べてみれば御二人は同年生まれ。無頼の精神を考えました。「亡くなった叔父が頻々訪ねてくる…」で始まる「墓」や「ふうふうふう」が良いけど、どの文章にも忘れていた情趣があり、得難い味わいがある。極めて不器用な処世なのに悲哀の重さを読者に伝えずに語る文章の流麗を感じました。語彙が豊かな奥行を与えてくれます。不安を抱えながら「懐中を叩く」事を止められないと作家は己を嗤う。2018/06/26
こばまり
48
【再読】この方の白昼夢のような文章が好きで時々手に取る。あまり耽溺するとそのまま向こう側へ連れて行かれそうになるので程々にする。異形の人も死人も日常も妄想も同じ地平線に佇んでいる。2016/05/18
hanchyan@深読みしてなんぼ
39
語り手の「私」が子供の頃に出会った奇矯な人物や、贔屓にしていた力士・芸人・歌手などなどについて語られる連作集。一種のエッセイなんだろうが、およそ平凡とは言いがたい人びとに対する「私」の感興に耳を傾けていると、冷徹と温もりを併せ持って矛盾しない「私」という個性が立ち現れ、私小説でもある。その「私」こそが、空前にして絶後、まさに唯一無二の存在・色川武大なのだ。行間から滲み出る凄みが半端ない。言わずもがなだが傑作。2024/01/08