内容説明
明治43年、政府は明治天皇の暗殺を企てたとして大量の社会主義者を検挙、翌年1月には幸徳秋水を含む12名の処刑を断行した。反政府活動とそれに対する国家の徹底した弾圧という、近代日本の暗部を象徴した「大逆事件」。新資料を駆使、小説の形式で事件の全貌と関わった人間たちの真の姿に肉薄しようとした労作。
著者等紹介
佐木隆三[サキリュウゾウ]
昭和12(1937)年、北朝鮮に生れる。福岡県立八幡中央高校卒業。38年「ジャンケンポン協定」で新日本文学賞受賞。39年まで八幡製鉄に勤務、以後著述を業とする。51年「復讐するは我にあり」で第74回直木賞を受賞。平成3年「身分帳」で第2回伊藤整文学賞受賞
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感想・レビュー
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金吾
31
大逆事件のことは、名前と幸徳秋水くらいしか知らなかったので、概要がわかり良かったです。小説だからかもしれませんが、戦後の革命ごっこよりはましかも知れませんが、信念よりも虚勢のように感じました。官の方も結論ありきで合理性がないように感じました。2022/04/09
C-biscuit
15
図書館で借りる。事件に対する予備知識があまりなかったので、非常に勉強になった。大逆事件とは明治天皇を暗殺する計画であり、社会主義で無政府主義者の一派が起こした未遂事件である。幸徳秋水や菅野スガの主犯格が中心となった事件であるが、多くの関係者が死刑になった。一部は恩赦などで減刑されたが、大逆罪はいきなり死刑であり、一審で判決が降りるというのも特徴的である。時代背景がそうさせたのであろうが、オウムの事件や昨今のテロなども思うと主義主張も大いに気になるところである。また、裁判について考えさせられる部分も多い。2017/03/26
北条ひかり
3
10時間14分(島根ライトハウスライブラリーと音訳者さんに感謝) 大逆事件に関するノンフィクション。調書・法廷記録等の引用が冗長で、要点を把握しにくい。冤罪事件としての性格も、かなりぼんやりしている感じだ。平沼騏一郎など社会主義者弾圧を画策した人物たちが、その後国政を動かすわけだから、そちらのほうについても、もう少しフォーカスしてほしかった。また、現在では予備罪が例外的であること等についても言及しないと、法学を学んだことのない人には大逆罪の非合理性がそもそもわからない可能性もあるのではないか。2015/09/17
うたまる
2
「刑法第73条[皇室ニ対スル罪]:天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ対シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ処ス」……明治44年、12名に死刑判決が下った大逆事件の記録小説。知ってみるといろいろ情けない事件だ。訴追された社会主義者は、仲間内で虚勢を張っていただけの粗忽者だらけだった。取り締まった権力機構は、寛恕や憐憫の心を失った愛国者だらけだった。ここには明治初期にあった新国家建設の溌剌さは見当たらず、先軍主義・官僚主義の暗鬱さのみが目立つ。情けなく恥ずかしい歴史。だからこそ憶えておこう。2017/05/26
nashi
1
彼らの運動には稚拙な面もあっただろう。だが自分を歴史上に客観的に位置づけられる人間などおらず、人は混沌とした今をもがいていくものだ。評価は後世の歴史が決めるとよく言われる。現代の感覚から見るに、社会主義の是非はともかく、国民の大半が戦勝に酔っているときに平和を叫び、迫害されながら言論の自由を訴え続けたことは、明らかに勇敢な行為だ。無実であったかもしれない人間の処刑は惜しまれる。彼らは今も犯罪者とされたままである。冤罪事件への関心が高まっている今こそ教訓にすべき事件なのではないか。2012/03/23