出版社内容情報
急逝が惜しまれる純文学の雄・中上健次。全篇にみなぎる性とインモラルな描写で大きな反響を呼んだ問題の長篇小説、待望の文庫化
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
346
久しぶりの中上健次。これを読んでいると暗鬱な気持ちに捉えられる。それは、ここに描かれる性の背後に人間が宿命的に背負っている業の存在を意識させられるからだろうか。主人公のイーブは女(本文では白豚と表現される)も男(黒豚)も相手にするジゴロであり、彼自身もバイセクシュアルである。小説のとりわけ前半は、これでもかというくらいに性描写が続くが(いい加減に辟易してくる)、そこには普通の意味での愛はない。あるいは、その形が根底から違っているのかもしれないが。そして、彼らの行動からは不毛感ばかりが読後に残るのである。2022/09/02
背番号10@せばてん。
19
【1990_谷崎潤一郎賞_候補】1995年11月14日読了。あらすじは忘却の彼方。1995/11/14
nina
11
翼をもぎ取られた愛を知らない天使は路地から遠く離れたこの地で道標を失った。性の愉楽を司る選ばれし神として君臨し、戯れの愉楽の底に沈み隠された愛を求めて叫ぶ人々に、愛の代わりに己の躯を切り売りする日々。性の放逸を尽くして全てを手にしても、そしてまた、全てを失ったとしても、路地の高貴にして淀んだ血が混沌の中で誰よりも求めて止まないものこそ、路地を失った中上がほんとうに描きたかったものなのだろう。『日輪の翼』の続編。2014/12/07
那由多
6
内容らしい内容がないので、あらすじを説明しろと言われると困る。だが、筆に力があるんです。
井蛙
4
東京は小説にならない、と石原慎太郎がどこかで言っていたのを思い出す。ツヨシの路地に対する態度の微妙な揺れは、中上のそれと共振している。路地を捨ててから、中上の小説は確かにその強度を失い、所在をなくしてしまったようだ(例えば『奇蹟』のような傑作の卓越性は、オリュウノオバとトモノオジという特権的な話者の回想という形でのみ担保されえたのである)。何かこの小説を読んでいると、荒野に立ち枯れた木の、逡巡する枝先を苛立たしく目で追っているような気分になった。つーかオバって5人いたはずだけど、残り2人はどうなったの?2019/10/21