出版社内容情報
日残りて昏るるに未だ遠し。家督をゆずり隠棲の日をおくる清左衛門。老いた身を襲う寂寥と悔恨。円熟期代表作とされる名品である
内容説明
日残りて昏るるに未だ遠し―。家督をゆずり、離れに起臥する隠居の身となった三屋清左衛門は、日録を記すことを自らに課した。世間から隔てられた寂寥感、老いた身を襲う悔恨。しかし、藩の執政府は紛糾の渦中にあったのである。老いゆく日々の命のかがやきを、いぶし銀にも似た見事な筆で描く傑作長篇小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
446
【海坂藩城下町 第5回読書の集い「冬」】三家清左衛門、城勤め用人まで務めた身だが、今は息子に家督を譲って、悠々自適の身。お江戸の中の面倒ごとが、彼のもとに持ち込まれる。清左衛門の人柄と機転にまず惹き込まれる。優しい家族に恵まれ(嫁の里江は、わたし的・影の主人公)、なお他人から頼りにされる彼は、理想の老後を送っていると言えるだろう。周平っちの代表作と言われるのもうなずける。ただわたしはやはり、女性目線の他作品に軍配をあげたい。里江目線での短編集があったなら、さぞかし読み応えのあるものになったろう。2020/01/06
ヴェネツィア
255
1月26日は寒梅忌であったらしい(読友の松風さんのご教示)。誰が名付けたのか寒梅忌というのは、まことに藤沢周平にこそふさわしいと思う。人は命日を自分では選べないのだが。少しずれてしまったのだが、遅ればせながら寒梅忌にちなんで藤沢作品をと本書を選んだ。本編は著者の還暦前後に執筆されている。篇中の「梅咲くころ」の清左衛門などは、作家本人を思わせるようで、ふと読者の微笑みを誘うかのようだ。作品は15の短篇が集積した物語集で、いずれも捨て難い趣きを持つが、「白い顔」の完成度が最も高いようだ。2014/01/28
yoshida
183
藩の用人まで立身し、家督を譲り隠居した三屋清左衛門。釣りに道場通いなど悠々自適の生活を送るはずが、気がつけば藩の派閥争いに巻き込まれてゆき。円熟の藤沢周平作品。面白いです。掌編が繋がり、一冊の長編として読めます。朋輩との友情、美しい自然の描写、季節の料理の描写、人情の機微、剣撃のやり取り、淡い恋、藩を揺るがす政変等、藤沢周平さんの作品の魅力がしっかりと詰まっています。三屋と「涌井」のみさの淡い恋。隠居したとはいえ、なお健在な三屋。そして希望に溢れたラスト。三屋のような良い歳の取り方をしたい。満足の作品。2017/01/22
KAZOO
169
藤沢作品はほとんど読んできているのですが、何年かごとに読みなおす本は、この本と「蝉しぐれ」くらいでしょうか?特にこの本の主人公は隠居した用人ということでじっくりした時間や過去に関する出来事が関係して楽しめます。連作短篇のような感じで読みなおしても細かいところは忘れても全体の流れは覚えています。また何年かしたら再読しようという気になりました。2024/08/06
kinkin
153
いい本を読むことができました。家督を譲り隠居となった主人公の身の回りに起きる出来事や事件、藩の執政争い、そしてなにより気に入ったのは登場する人物たちの描き方、主人公が身を置く藩の季節感や風景。藤沢周平氏の作品は市井ものが好きですが本書もとても気に入りました。本筋からはすこし離れますが料理屋「涌井」の女将さんや料理がツボにハマってしまいました。熱燗がたまらなく飲みたくなります。女将さんの姿を想像するのもまた楽し。いずれにしてもまた読みたいと思いました。年を重ねて読んだときどんなことを考える自分がいるかな。2020/11/05