出版社内容情報
心通じぬ妻、跡取り息子の放蕩、闇のように冷える家。あとの半生は老い朽ちるだけなのか。老いゆく日々の、あてどない男のこころ
内容説明
はじめて白髪を見つけたのは、いくつのときだったろう。骨身をけずり、果てにむかえた四十の坂。残された日々は、ただ老い朽ちてゆくばかりなのか。…家は闇のように冷えている。心通じぬ妻と、放蕩息子の跡取りと。紙商・小野屋新兵衛は、やがて、薄幸の人妻丸子屋のおかみおこうに、果せぬ想いをよせてゆく。世話物の名品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
237
人生の峠を越えて立ち止まった時にふと感じる老い、このまま朽ちていくのか、という焦り。痛いほどわかっちゃうんだよなぁ。私自身は、薄幸の人妻「おこう」になり切って上巻読了。下巻では、せいぜい新兵衛に幸せにしてもらいましょう...と言いたいが、なんか雲行き怪しいな。2016/09/25
ヴェネツィア
152
世話物の長編。海坂藩をはじめとした、武士社会を描いたものとはまた違った味わい。江戸の下町の情緒と空気感を堪能できる。これを読んでいると、はたと気付くのだが、江戸の街は基本的には徒歩でどこにでも行けたのだ。タクシー代わりには駕篭もあったし、また、街中に張り巡らされた水路を利用するという方法もあったのだ。大量輸送の可能な交通機関こそはなかったが、そんなものは必要なかったのである。さて、物語はそんな江戸の街で、初老の紙商人、新平衛の不義密通をめぐって展開してゆく。江戸に没入しつつ下巻へ。2016/08/27
metoo
60
【洋子さんの本棚】より。江戸時代の商人の暮らしや商いの仕方が興味深い。紙を扱う商人、小野屋新兵衛は苦労し一代で店を築いたが気がついたら40代。妾を囲ってから妻は冷淡に息子は遊びまわっている。順調だった仕事も雲行きが怪しくなりあらぬ疑いをかけられる。特に不気味なのは同業組合の実力者丸子屋だ。丸子屋の妻おこうを助けたことから心を許し合うようになる。お江戸では人の妻を盗んだと訴えれば死罪となる。命がけの愛に走るのか、次代に続く盤石の商いに励むのか、「海鳴り」から波乱含みの下巻の予感。 2017/08/06
matsu04
54
11年ぶり再読。主人公の新兵衛は自身の老いを意識し始めた50前の商人だ。仕事中心に生きてきてそれなりの地位を築いたつもりだったのだが、妻との険悪な関係、難しい年頃の息子への対応といった家庭問題に加え、やがて商売にも不穏な翳りが見えてきて、これまでの自身の生き方に疑問を持つようになる。そうした中、妙な縁で知り合った美人人妻のおこうに対する想いが徐々に…。時代小説なのに現代モノ以上にリアルで、心の奥深くに静かに響いてくる。2015/12/13
shincha
42
藤沢周平さんの作品で、剣客の武士が出て来ない作品は初めて読むかも……紙問屋で何とか一角の店を持つ事が出来た新兵衛は、家族の妻との不和と仕事に目を向けないドラ息子に頭を抱えている。そんな新兵衛に様々な試練が降りかかる。今では40代中盤など、働き盛りの真っ只中だが、江戸時代は、そろそろ隠居を考え始める初老と言える年齢。さて、下巻ではどんな展開が待ち受けているのか…上巻で振り撒かれた布石は、どのような結末を迎えるのか…楽しみながら、下巻に進みます。2023/08/07
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