内容説明
大正12年9月1日、午前11時58分、大激震が関東地方を襲った。建物の倒壊、直後に発生した大火災は東京・横浜を包囲し、夥しい死者を出した。さらに、未曽有の天災は人心の混乱を呼び、様々な流言が飛び交って深刻な社会事件を誘発していく―。二十万の命を奪った大災害を克明に描きだした菊池寛賞受賞作。
目次
「大地震は六十年ごとに起る」(群発地震;今村説vs大森説)
地震発生―二十万の死者(大正十二年九月一日;激震地の災害 ほか)
第二の悲劇―人心の錯乱(“大津波”“富士山爆発”流言の拡大;朝鮮人来襲説 ほか)
復興へ(死体処理;バラック街 ほか)
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927年、東京生まれ。学習院大学中退。66年「星への旅」で太宰治賞を受賞。同年「戦艦武蔵」で脚光を浴び、以降「零式戦闘機」「陸奥爆沈」「総員起シ」等を次々に発表。73年これら一連のドキュメンタリー作品の業績により第21回菊池寛賞を受賞する。他に「ふぉん・しいほるとの娘」で吉川英治文学賞(79年)、「破獄」により読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞(84年)、「冷い夏、熱い夏」で毎日芸術賞(85年)、さらに87年日本芸術院賞、94年には「天狗争乱」で大仏次郎賞をそれぞれ受賞。97年より芸術院会員
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感想・レビュー
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やすらぎ🍀
246
生存者が目撃者である。大地が予想以上に長く強く大きく揺れ、一斉に辺りが混乱し、日常は非日常へと一変する。建物が崩れ、燃え広がり、逃げ場を失った地、人々が守りきった地もある。大正12年9月1日11時58分44秒、この克明な地震計の針は財産となる。吉村昭さんが必死に収集した貴重な記録である。今年で丁度100年が経つ。決して他人事ではなく、いつかまた確実に起こる。天災は恐怖だが錯乱状態の人間もまた恐ろしい。恐怖流言が次々と増えていき人々の感情が壊れる。正しい情報の見極め、冷静な感情を保つことが出来るのだろうか。2023/08/30
青乃108号
148
大災害が頻発している昨今。いつ自分が被災者になるかわからない。「漂流」「羆嵐」の2作を読んで吉村昭の筆力に感銘を受けていた俺は本作を手に取った。戸惑い。東京の地名が分からない俺には詳細に記載される被害状況がピンと来ない。組織名など長い漢字の羅列につぐ羅列。読んだところで記憶に残らないので漢字の固有名詞はどんどん読み飛ばす。そのようなとても精読とは言えない読み方ではあったが、やはり作者の筆力にまたも脱帽。様々な角度から震災を描く構成も完璧。災害にあったらどうしよう。俺にはとても耐えられそうもない。2021/09/12
kinkin
120
再読本。首都直下型地震をシュミレーションした特別番組を見かけることがある。しかし大地震の怖さや教訓を得るためにはまずこの本を読むことが大切だと思う。地震そのものによる家屋の倒壊や火災による被害もだが一番怖いのは理性を失ったときの人の怖さだ。あちこちで流言が飛び交いそれにより多くの人が殺されたりどさくさに紛れて死体の中から指輪や金歯を剥がし取ったりする心理。災害は人の心も壊すことをこの本は伝えている。物理的な被害の他にも死者の処理、被災後の衛生管理など常に考える必要のあることも多く書かれている。2020/01/12
ケンイチミズバ
110
大震災の50年周期説なる持論を否定された助教授は針が振り切れた地震計の前で、そらみたことかと心の中でガッツボーズをしたのかと思うと、人間の愚かさ、至らなさ、そして人は神様のおもちゃだと感ぜざるを得ません。世間から大ぼら吹きと揶揄され権威者の陰で卑屈な立場にいた者が未曽有の大災害を見事言い当てた時のしてやったりは悲しいね。大きな混乱を招くことを回避したかった教授の考えも一つの正論であって、あくまでも地震学は学問、学問は予想のためのものではないというのはこの時代の水準においては仕方のないことだったと私は思う。2023/09/08
kinkin
107
今、関東大震災規模の地震が東京に起こることを想像すると恐ろしくなる。 ネットやSNSに依存している現在、当時以上にデマや、悪質な噂が飛び交うこと、高層ビル群や、地下の施設もどれほどの影響があるだろうか。 昔、起こったことではなくこれからいつ起こっても不思議ではない大地震。 ハード面の防災でけでなく、発生した場合どのように対処したらよいのか 住民一人一人が真剣に考えなければいけないと思う。 2014/02/03