内容説明
戦死した兄の思い出を辿るうち、胸に呼び起こされたある不幸な事故の記憶。過去に埋もれた出来事を追い求める表題作ほか、浮気調査を任された大学生が意外な現実を目の当たりにする「尾行」、夫と子を捨てて別の男と失踪した娘を連れ戻しに行く「父親の旅」など、人生の一瞬の揺らぎを捉えた十二の傑作短編集。
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- 評価
日本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キムチ
49
トルストイは作中「幸福の形は同じだが、不幸の形は色々」って言っていた・・ふとそれを思い出させる短編12.いずれもハッピー感は皆無・・どころか随所に吉村氏の眼鏡の奥に光った眼が感じられる。むかぁし、上野駅のホームに溢れかえる人々の群れを眺め、「いかなる人も一瞬は光がある」と感慨に耽ったことがあった。作中のある女性が抑制のきかぬ性(サガ)ゆえ破綻する下りがある。それは他者にはいかようにも説得し難いもの~だが、人生の黄昏には何故かしら収斂に向かい普遍的な世界へ収まって行くものだ。人生読本と感じた年末の本。 2017/12/25
たぬ
45
☆4.5 戦史や歴史を描いた重厚な長編もいいけど短編も読みごたえが半端ないのよね。70年代半ば~90年代後半の作品を集めたこの12編の中では「梅の蕾」に特に感動したな。無医村状態の僻地へ来てくれた都会のエリート医師の妻の葬儀に多数の村人が遠路はるばるバスで乗り付けるところ。私も目頭が熱くなった。まだ見ぬ父親を執拗なまでに追う女性の話「夾竹桃」もとても好き。2022/03/31
mondo
44
私は吉村昭の小説を読んでは、その舞台を歩き、ブログを書くということを4年ほど前から繰り返している。それを読んだ方から、有難いコメントを頂いた。その方は、行きたい場所として岩手県田野畑村を挙げていた。ご存知の通り、吉村昭にとっては大事な場所。その際に「梅の蕾」を紹介してくれた。未読の私は慌てて「梅の蕾」他の短編が収録されている「遠い幻影」を読み終えた。全て素晴らしい作品だったが、「梅の蕾」には田野畑村に対する吉村昭の格別な思いと人の優しさが込められていた。私も田野畑村に行きたくなった。2021/04/01
Shoji
43
十二話の短編が収録されています。どの作品も、人の心模様の移ろいや人生のちょっとした機微が描かれています。それは、ほんのり温かいお話であったり、切ないお話であったり様々です。吉村昭さんの人間模様の描写に惹き込まれました。2022/01/29
kawa
37
戦後とあのころの昭和の香りが色濃く匂う短編12集。個性的作品が多く各々の作品ごとに人間の不思議さ、やるせなさが溢れる。無医村地域の人々の心配とそこに赴任する医者の思いが交錯する「梅の蕾」、縁がなかった姪をさり気無く訪ねる「青い星」の余韻感、娘の不実を心配する父を描く「父親の旅」、知らなかった亡兄の甥との相続問題を扱う「桜まつり」等が印象に残る。2023/10/19