出版社内容情報
近代日本の底辺に生きた海外売春婦「からゆきさん」をたずね、その胸深くたたみこまれた異国での体験と心の複雑なひだとをこまやかに聞き出す。底辺女性史の試みに体当りした感動的な大宅賞作品
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ann
50
ここまで詳しく知りえなかった「からゆきさん」の生きた証を突きつけられた。深く考えている。2018/07/30
James Hayashi
36
映画にもなった日本の恥部の一つである“からゆきさん”の歴史を探るルポ。72年初版。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。娼婦ゆえの後ろめたさの為か、取材を難しいと思い身分を隠し潜入する著者のプロ意識。すごい取材力。ジャーナリストでない為、取材費も出ないであろうが、ムカデがでる畳に3週間も滞在。閉ざされた彼女たちの胸のうちをこじ開け、近代日本の陰鬱なる歴史を紐解いている。明治時代の話しで生存する人が少ない故、ルポ数は限られているが、貧しさと悲惨さは十分伝わってくる。続く→2019/02/18
nonpono
26
一緒に暮らしながらおサキさんの話に耳を傾けた著者。10代にボルネオに売られた天草育ちのおサキさん。水しか飲めない日常の彼女には三食食べれることが幸せだった。係累も10人、異国に渡る。からゆきさんは、唐行きである。おサキさんはイギリス人のお妾さんになったり、末は満州で女給をしながら家族を支える。戦後、すべての財産を失い命からがら日本に帰国しても、「外国帰り」のレッテルが付きまとう。彼女の仕送りで建てた家なのに、肩身が狭いおサキさんの一生を著者がその叫びをすくいあげる。女による女の為の傑作なルポタージュである2024/08/15
みっちゃんondrums
24
からゆきさんだった老女おサキさんの、故郷天草に戻ってからの生活もまた凄絶。百足が巣くう畳のあばら家で、息子からの少ない仕送りのみが頼り。天草の親族は、彼女が娼売で得た金で家まで建てたというのに。それでも、裕福な時もあったり、結婚したり、生きて帰国できた彼女はましだったのか?著者は素性を隠し、おサキさんと生活を共にすることで、からゆきさん時代の話を引き出す。感心できない部分もある著者だが、この記録を残したことはすばらしい。語り口が平易で読みやすかった。おサキさんとの別れの場面では涙した。2018/11/18
Melody_Nelson
7
家にあった本。思いもかけず傑作に遭遇。「からゆきさん」という言葉は聞いたことがあったけれど、具体的には知らなかったので、本書を読み、その歴史的背景を知るだけでなく、当事者の女性たちの生々しい話、筆者の考察に触れ、痛切だった。本書は紀行文のような独特な形式をとっており、結果、それがある種「物語的」であるためか読みやすいので、古い本ではあるが、多くの人に読んでもらいたいと思った。最後のおサキさんの手紙に泣いた。2020/04/27