内容説明
尾張、清洲城下のはずれで、二十の於蝶は五月晴れのもとにのびやかな肢体をなげだしていた。夏草のにおいと果肉のような体臭に木立を進む武士は惑乱した。一瞬の後に…。川中島から姉川合戦に到る年月を甲賀忍びの技と道に賭してゆく於蝶。おのが生理と心をあやつり、死闘を繰り広げる女忍びの活躍は、ここからはじまる。
著者等紹介
池波正太郎[イケナミショウタロウ]
大正12(1923)年、東京に生れる。昭和30年、東京都職員を退職し、作家生活に入る。新国劇の舞台で多くの戯曲を発表し、35年、第43回直木賞を「錯乱」によって受賞。52年、第11回吉川英治文学賞を「鬼平犯科帳」その他により受賞する。63年、第36回菊池寛賞受賞。作品に「剣客商売」「その男」「真田太平記」“必殺仕掛人”シリーズなど多数。平成2年5月3日没
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感想・レビュー
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とん大西
108
面白かったです。池波さんの忍者モノはハズレなしだなぁとつくづく思います。歴史の舞台裏で跳梁跋扈した影のヒーロー。闇に同化し、宙に舞い、必殺の武器を放つ。信長、信玄、謙信-戦国のカリスマたちが威風堂々の戦いを繰り広げる中、女忍び於蝶に下った甲賀の司令。史上名高い川中島の激突の表舞台は武田と上杉の決死の肉弾戦。上杉方の忍びとして、闇夜に紛れ、敵を欺くは手練れの於蝶。臨場感と緊張感がごった煮の冒険活劇談にワクワクがとまりません。2019/08/17
雪風のねこ@(=´ω`=)
70
ひらりひらりと、それこそ蝶が舞うような於蝶の振る舞いは、戦国の世に咲く武者という花々の蜜を追い求めているかのよう。強かである。謙信も信玄も僧となって平定に尽くすんだけど、女性のそういう所を警戒したのかも。実際はともかく、於蝶とは対照的に描かれそんな印象を受ける。ただその気迫は並々ではなく、川中島決戦は手に汗握る。まるで真田太平記夏の陣を思い起こさせる。といえば岡本小平太が佐平次みたいだね。成長も凜々しい。今後の活躍に期待したい。2016/04/26
キャプテン
35
★★★☆☆_「忍者ハッタリくんだってばよ!フェア」第四弾。拙者、世界最高の忍者を目指して修行中の忍者ハッタリくんでござるよ!夢はジェームズボンドでござる!今回は甲賀系忍びの杉谷忍び、その中でも妖艶さ極まるとある女忍者から、忍者の極意を学ぶってばよ!足利の時代が終わり行く中で、激動する世相──、そのなかで生き残るには、男どもを怪しく、妖しくいなし、闇から闇へと舞う、黒き牒になる必要がある、ということだってばよ!うんうん!しかし、黒き蝶でも、どこまでいってもやはり人、謙信ほどの男には人心が呼び覚まされるのか!2019/06/16
ぶんぶん
23
【図書館】やっと、最初に戻って来た。 「忍びの風」「火の国の城」と読み進め第一弾に戻って来た。 忍者・於蝶は未だなり立て、20歳である。 いろんな手管を使い、諜報合戦に挑む。 出だしから、不穏な空気が漏れる。 清州城の外れで襲われてしまう、しかし、それを難なくかわし、針で眼を突いて逃げる。 滝山忠介との出会いである。 やがて、上杉謙信を守りつつ川中島の決戦に流れて行く。 恋も肉体も十分に出来る於蝶の死闘の物語。 市木平蔵との別れを経験し於蝶は敢然と立つ。 清州城下で密偵をする於蝶、これからどうなるのか。 2022/08/31
あまね
17
『火の国の城』でお婆ちゃんだったお蝶さんが、ぐっと若返って20代の女忍びで大活躍です。時代は、上杉VS武田の戦が真っ盛り。織田信長もまだまだ諸国と画策しているレベルです。上杉謙信にもう少し柔軟性があれば…と思う描写が多いですが、軍師の宇佐美定行がなかなかステキです。楽しいです。2021/04/09