内容説明
幕末、小藩の大番頭の娘・明世は南画の自由な世界に魅せられるが、世間の仕来りは女子が絵を描くことを許さない。結婚して夫と姑に仕えることを強いられた二十年を経て、明世はついに自らの情熱を追う決心をする―封建の世に真の自立の道を歩もうとする一人の女性の、凄まじい葛藤と成長を描いた感動長編。
著者等紹介
乙川優三郎[オトカワユウザブロウ]
1953年、東京生まれ。千葉県立国府台高校卒業後、国内外のホテル勤務を経て96年、「薮燕」でオール讀物新人賞を受賞し、デビュー。96年、「霧の橋」(講談社)で時代小説大賞、2001年、『五年の梅』(新潮社)で山本周五郎賞を受賞。02年、『生きる』(文藝春秋)で第127回直木賞受賞。04年、『武家用心集』(集英社)で第10回中山義秀文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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じいじ
115
ひと言で言うなら、静謐でとても瑞瑞しい小説です。しかし、主人公・明世の心のうちは、激しいオンナの情念が静かにメラメラと滾っています。時は幕末、男社会で女性の自由があまり赦されない時代に、画家としての生業を望む一人のオンナの物語です。親の決めた結婚に不本意なが従うも、絵を描くことへの執念を貫く明世に心を打たれます。美しい文章に酔いしれる長編時代小説、七作目にして、乙川小説の魔力から抜け出せなくなりました。2018/12/01
Lara
93
江戸末期、上士の家に生まれた末高明世(すえたかあきよ)は、13才から画塾へ通いはじめた。「人一倍好奇心が強く、誰もが認める利発な娘だったが、自意識が強く、南画の世界に没頭した」嫁に行かず、ただ絵を描いていたかったが、18才で嫁ぎ、息子を出産、その後若くして夫と死別、夫の両親の最後を看取った。その20年間も、絵に対する思いは衰えず、画塾で恋仲になった男の死をきっかけに、一人で江戸に出る決意をする。息子、実母、画塾の師匠とも縁を切る覚悟。そこまでの絵に賭ける情熱を燃やす明世。新たな出発を祝いたい。2020/10/01
アッシュ姉
72
素晴らしかった。時代小説なのにとても読みやすく、透明感があって清々しい。静謐な文章が心地よく、じっくり読ませていただいた。女性が自由に絵を描くことすら許されなかった時代に、南画の世界に魅せられた武家の娘。世間の束縛や日々の生活に追われるなかでも、絵を描くことを諦めない強い意志、燃えさかり枯れることのない情熱に圧倒された。同じ夢を持つ男性と交わす淡い約束、思いのままに生きたいという切実な願いに幾度も胸を打たれる。苦難を乗り越え、決意した覚悟の深さに涙がこぼれた。2017/11/29
キムチ
41
なぜに乙川氏は私の心を掻き毟るのか。。と嘆息をついてしまう。時代は明治の夜明け前。大小の藩が尊王か保守かでかますさびしい時代。大きな身代とは言わずとも厳格な家に生まれた明世は幼少の頃から絵に打ち込む。そして幼馴染が2人、その一人とは結ばれぬものの終生心にほむらを燃やす。彼女、まさに女の鑑。幼くして父に従い、嫁して夫に、老いて子に従い、家事も子育ても、付き合いも、そして絵の道も極める。ラスト近く、想う修理の事を案ずる時、犬の遠吠えが何度も彼女の耳に木魂する。まさに時代の男どもはそうだったのだろうか。2014/02/28
ふじさん
39
明世の南画に懸ける思い。最後にすべてのしがらみを捨てて初心の思いを叶える明世に女の強さを感じ、しげとの別れの場面では思わず涙ぐんだ。江戸時代の終焉を迎えるこの時期に、こんな生き方が出来た女性を丹念に温かい眼差しで描いた作品にたくさんのナイスを送りたい。 2020/06/03
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