出版社内容情報
私は競馬に熱中する。私のなかの父り血が私を競馬にかりたてるように思うのだ……「血族」に続き私小説の手法で人間の真実の姿をおもしろく深く見事に描破した!
内容説明
府中の競馬場のパドックで、川崎の幸町小学校での同級生石渡広志に、偶然会った。このことがきっかけとなり、私の川崎での幼時体験の記憶が動きだす。記憶のかなたにいるおぼろげな父の像。こわい夢がオーバーラップする…。前作菊池寛賞受賞の「血族」に続き、熱き愛で静かに父の実像を凝視した意欲長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さっちも
13
息子が父親を想うと、醜い自分の姿が照射されているようで、だれしも暗澹とした気分に少なからずなるのでは、、、その淀んだ暗い葛藤で小説は展開される。キツーイけれど素晴らしい、親子の愛憎をえがいた傑作だと想う。2020/11/15
さっと
12
「母の一生も父の一生も、その大半は秘すことにあったと思われる」―自身の生い立ちから母の秘密を描いた『血族』に続く私小説は父と子の物語。おぼろげな記憶にある、父のいなかった1年間と、化粧で女のにおいのする母の胸に抱かれて見た線路わきを疾走してくる電車の光。旧友と偶然出会い、幼少期の川崎時代の悪夢のような体験を追いながら浮かび上がってくる父の姿。いくつもの事業に携わり浮き沈みし、それでも身なりは上等のものでまとめ、麻雀には弱いくせに、さみしがりのためいつもだれかに囲まれていたかった。そんな父を著者も愛した。2015/05/24
しんこい
11
再読。前に読んだ時は父親のヒミツ追究より競馬ばっかりしていると思ったみたいですが、今読むと起業と倒産を繰り返したはた迷惑とも言うべき父親の姿は、息子である自分がギャンブルである競馬に大金を投じたり、再会した友だちは借金に追われてすさんでいる話とかがあって、一層浮き彫りになると思いました。2015/01/04
ウチ●
5
「血族」に続くファミリーヒストリー。今度は父の秘密を、川崎競馬での幼馴染との再会を機につまびらかにしてゆく。昭和の日の川崎南部。「3丁目の夕日」のようなホンワカした空間ではありません。労働者のリアル。様々な世界、稼業の人々。緊張の続くストーリー、「血族」とは対照的に読後感はやるせない。父の事業失敗に伴う山口瞳の暗黒時代に封印された記憶・・・(ややや、幼馴染と通っていたガッコは私の母校では!?)登場人物名も地名も私の身の回りに偏在していて変な汗が出てきそうでした。2018/10/01
ヒヨドリスキ
4
作者の母のルーツを辿った血族に続き、父の秘密を探った本。相変わらず思わせ振りな書き方についつい引き込まれてしまう。こじれた兄弟関係、幼少期の怖い記憶。父への愛憎は複雑でお人好しのいい加減さに呆れ晩年は口も効かなかった作者。競馬好きの同級生との邂逅で1週間競馬通いする辺りは最後長すぎて飽きてきたら思わぬ結末となって驚いた。そこは創作かドキュメントか分からないが気になった。2022/10/30