内容説明
富士山噴火によって被害を受けた農民を救うべく奮闘する関東郡代伊奈忠順。だが幕府内の政争の前に、彼の努力もむなしく、農民達は次々に飢えていく。ついに忠順は決心する。たとえこの身がどうなろうと幕府米五千俵を秘かに農民に与えようと―。農民救済に命をかけた代官の生涯を壮大なスケールで描く。
著者等紹介
新田次郎[ニッタジロウ]
明治45(1912)年長野県生れ。本名藤原寛人。無線電信講習所(現在電気通信大学)卒業。昭和31(1956)年「強力伝」にて第34回直木賞受賞。41年永年勤続した気象庁を退職。49年「武田信玄」などの作品により第8回吉川英治文学賞受賞。55年2月没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
51
農民たちが次々と植えていく姿がつらかったです。だからこそ命懸けで動いた伊奈半兵衛。その生涯はかなりのスケールがありました。自分より身分の低い立場を救おうとした姿が刺さります。2023/08/10
James Hayashi
39
時代モノらしいエンディング。記録をもとに書かれた小説。タイトルのごとく富士の噴火という大自然の脅威に打ちのめされる民衆を描いているようで、実質権威者のもとでの民衆の苦悩が痛い。ここでは民衆の代弁者であった伊奈忠順の慈悲、役人たちの腹黒い思惑、権力争いなどをメインとした人間ドラマ。しかし状況は震災、福島原発事故を経験した被災地の方に通じるものがあるように思われ、怒りと悲しみが交差する。未来の富士の噴火を恐れる一方、為政者の叡智なる行動を望む。2018/02/02
kawa
38
読み応え充分。綱吉から家宣に将軍位が引き継がれるとき、側近として位を極めた柳沢吉保も間部詮房・新井白石らに実権が奪われていく。そんな中で起こった宝永富士山噴火に農民を救わんとする関東郡代・伊奈忠順や、彼を取り巻く幕府官僚の様々な暗闘と凄まじいスパイ国家の如き江戸時代の様に目を見張らされる。お隣の歴代韓国大統領の非業な顛末や中国・北朝鮮の度を越す体制監視ぶりに?だったのだが、日本にもそう変わりない歴史があったことを再確認する思い。その中での農民のおことや文吉の描き方が秀逸でピりっとした味付けが巧妙で上手い。2023/05/08
金吾
36
伊那郡代は領民のためにしたことは信念と慈愛に溢れたすごいことだと思いました。正しい人が報われるわけではないということに考えさせられるものがありました。ただおことの部分は引っ張りすぎだと感じました。2022/08/23
№9
31
下巻に入って物語は俄然、「時代小説」の趣きを増し、権力をもつものと民衆、それぞれの人間模様とその狭間で苦悩する伊奈半左衛門の姿を描く。「時代小説」としての伊奈半左衛門のキャラは正義の人一点で地味だが、脇を固める実在の幕府役人たちや「おこと」「つる」「おはる」といった女性キャラが物語の伏線を引っ張り、一気に読ませてくれた。新田のあとがきでこの伊奈半左衛門の文献資料が意外にも少ないことを知る。日本史上未曾有の大災害に苦しむ民衆の救済に命を賭しながら歴史に埋もれかけていた伊奈半左衛門忠順。その名を心に刻みたい。2013/07/14