出版社内容情報
「哀切! 世に訴へる 肉親愛憎の極致篇」
ひと昔の週刊誌の煽りようですが、今では権威として知られる一流新聞に踊った見出しでした。
大正から昭和に入るころ、犯罪は現代と比べてひとつひとつが強烈な存在感を放っていました。新聞や雑誌が競い合って報道し、読者もこぞって読み漁る――。
そのような報道と受容の在り方が、昭和の時代とともにやってきました。本書では、その発端ともいえる、「鬼熊事件」(一九二六年)を皮切りにして、合わせて9つの事件とその報道の顛末を紹介します。
◎鬼熊事件
激動の昭和に入る直前。千葉の農村で七人を死傷し、四十日間もの間逃走した事件があった。犯人の鬼熊は、一躍メディアのスターに。
◎岩の坂もらい子殺し(1930年)
東京板橋の貧しい人々の町で、赤ちゃんを育てられない親から「養育金」を貰い、殺していた事件。記者と警察の思惑が絡み合い「大事件」報道化。
◎天国に結ぶ恋(1932年)
華族家の大学生と旧家の令嬢の心中事件が、女性の遺体盗難という猟奇的展開と相まって話題に。「二人の恋は清かった」と空前のブームになった。
◎翠川秋子の心中(1935年)。
日本初の女性アナウンサー翠川秋子。夫に先立たれながらも、働いて子どもを成人まで見届けた女性が選んだのは、家出と十数歳下の男性との入水自殺。彼女を追う記者たちの「働く女性への偏見」が炸裂。
◎日大生保険金殺人(1935年)。
実父の院長とその妻、娘が共謀して、放蕩息子の日大生を殺害。狙いは、彼にかけられた現在の一億円相当の生命保険金。当時はめずらしかった「保険金殺人」だった。当時の警視庁刑事部長も「前代未聞の犯罪」と唸る。
ほか◎阿部定事件(1936年)◎津山三十人殺し(1938年)◎チフス菌饅頭事件(1939年)◎父島人肉食事件(1945年)など有名事件を紹介。
内容説明
昭和は、事件報道の熱い時代だった。元女性アナウンサーと年下男の心中、女医の怨念こもるチフス菌饅頭殺人、岩の坂赤子殺しに親子保険金殺人、そして父島人肉食。大事件の裏に蠢く、強烈な愛と憎しみ、そして金勘定を、当時のメディアは遠慮なく、生々しく描き出した。
目次
0 鬼熊事件―大正十五(一九二六)年 代替わり目前、大正十五年夏の犯罪
1 岩の坂もらい子殺し―昭和五(一九三〇)年 三十人以上が無残な死…「スラムぐるみの衝撃的な犯罪」
2 天国に結ぶ恋―昭和七(一九三二)年 「純愛」と「猟奇」の狭間で 坂田山心中
3 翠川秋子の心中―昭和十(一九三五)年 日本初の女性アナウンサーが子どもの成人を見届けて失踪…その真意は?
4 日大生保険金殺人―昭和十(一九三五)年 「一億三千万円」の保険をかけ、父、母、妹が共謀…一家で息子惨殺の末路は?
5 阿部定事件―昭和十一(一九三六)年 愛の極致か変態か…伝説の女・阿部定
6 津山三十人殺し―昭和十三(一九三八)年 『八つ墓村』のモデルになった「世界記録」の大量殺人
7 チフス菌饅頭事件―昭和十四(一九三九)年 貢いで貢いで裏切られ…人々の同情を集めた「女医の復讐」とは?
8 父島人肉食事件―昭和二十(一九四五)年 戦争末期、離島でなぜ日本兵はおぞましい行為に走ったのか
著者等紹介
小池新[コイケアタラシ]
ジャーナリスト。1947年、千葉市生まれ。東京外国語大学卒。1972年、共同通信社入社。社会部、長崎支局、名古屋支社編集部次長、社会部次長、東京MXテレビ報道部長などを経て共同通信編集委員。退職後は、立教大学兼任講師(2008~2018年)などを務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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