内容説明
雅なイメージのある平安朝で巻き起こる凶悪な犯罪の数々。治安を司る検非違使の長(別当)藤原公任の残した文書には、貴族社会の最下層に生きる人々のリアルな声が記されていた。暴力が跋扈する平安社会の裏の姿が蘇る。
目次
河内国の夜討ち
他人の水田の稲を刈り盗る狼藉者たち
高利貸の横暴な取り立てに苦しむ未亡人
財産を差し押さえられる摂津守の郎等
郎等に裏切られた近江介
放火・殺人をたくらむ大和国のごろつきたち
ある郡司の災難
難破船を襲撃する人々
海賊の常習犯
拘留していた犯罪者を逃がした責任
獄舎に入れられる人々
大和守の郎等を殺した「凶党」
地方で作られる王朝時代
著者等紹介
繁田信一[シゲタシンイチ]
1968年、東京生まれ。東北大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。現在、神奈川大学日本常民文化研究所特別研究員。東海大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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サケ太
25
平安時代怖い。著者の『殴り合う貴族たち』から、雅ではない貴族の実態について知ることが出来たものの、今回はその外で生きていた人々に視点が当てられる。『都の中だけを見ても、武士たちが鎌倉幕府によって統制されるようになる鎌倉時代に比べて、王朝時代の方が、武士たちが野放しになっていたのかもしれない。』平安時代=貴族の世という固定観念。検非違使別当藤原公任が残した文章の裏紙(公文書)から、王朝時代の武者たちをみていく。そこで起きた様々な事件と人々の訴え。そこで生きていた人々がいたからこそ、次の時代があるのだと感じる2020/11/14
ようはん
21
主役となるのは藤原道長の時代における下級貴族や地方の豪族。しかし辻斬りに強盗に海賊行為等の暴力犯罪行為が日常茶飯事である事が紹介され、源氏物語や枕草子で描かれる平安時代の貴族達による煌びやかなイメージはごく限られた一部の世界でしかない事が分かる。武士の時代は実質的に始まっていたとも言えなくもない。2023/10/29
MUNEKAZ
20
藤原公任が検非違使を務めた際に遺した文書から、平安時代の畿内近国で起きた様々な事件を紹介した一冊。全編を通して悪人、悪行のオンパレードでめまいを覚えるのだが、事件の根本には受領と郡司の対立など、荘園制の内包する矛盾が多いのが印象的。また「犯人」を捕まえても、繰り返される恩赦によってすぐに放免となり、犯罪の抑止としてあまり機能していないようにも思う。結局のところトラブルを抱えた荘園領主は、こうした犯罪経験豊富な輩を雇い入れ、暴力の連鎖が止まらない。そして、これの行く着く先に「武者の世」がある。2022/07/27
香菜子(かなこ・Kanako)
19
平安朝の事件簿 王朝びとの殺人・強盗・汚職。繁田 信一先生の著書。平安朝で凶悪な犯罪は数多く起きていた。殺人強盗汚職。時代に関係なく起きる凶悪犯罪。私利私欲や怨恨と紐づいた凶悪犯罪が起きてしまうのは人間社会の宿命なのかもしれない。遠い未来の人間社会では凶悪犯罪がなくなっていることを願います。2023/08/18
Toska
17
検非違使庁が残した貴重な文書をネタ元として、平安時代の治安状況を探る。単なるエピソードの羅列にとどまらず、他の史料や文学作品からも情報が補足されている。例えば海難事件の章では、当時の船舶の構造や船長の待遇、『枕草子』に見える航海風景などを紹介することで、状況が立体的に浮かび上がってくる。読者としてはまことにありがたい工夫だ。平安京そのものではなく、周辺地域(畿内近国)にスポットを当てているのも本書の特徴。ただ、これに関してはタイトルで明示しておいた方がよかったと思う。2024/11/03
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