出版社内容情報
没後25年を経ても、根強い人気を誇る藤沢周平。時代小説ファンの範疇を越えて、いまなお多くの人々に愛されるのはなぜか。『蝉しぐれ』『三屋清左衛門残日録』などの名高い名作はもちろん、歴史小説、評伝小説など、その奥行きをあますところなく照射する。藤沢文学に正面から向き合った初の本格評論。
内容説明
時代小説、歴史小説、伝記小説すべてが、人間を探る。すばらしい文学だから、文章は力強く、美しい。没後25年、その魅力と精髄に迫る初の本格的評論!
目次
第1章 海坂藩に吹く風
第2章 剣が閃めくとき
第3章 つつましく、つややかに―武家の女たち
第4章 市井に生きる
第5章 歴史のなかの人間
第6章 伝記の達成
付録 「自然」からの出発『藤沢周平句集』解説
著者等紹介
湯川豊[ユカワユタカ]
1938年新潟市生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、文藝春秋に入社。「文學界」編集長、同社取締役などを経て退社。その後、東海大学教授、京都造形芸術大学教授を歴任。『須賀敦子を読む』で読売文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
99
シリーズ物の時代小説は数多いが、ほとんどは江戸や大坂など大都市や実在の藩を舞台とする。海坂藩という架空の土地を創造した藤沢周平は、同じ地方に浮かんでは消える人間模様を描くことで海坂に生きた人びとの歴史を語ろうとしたのか。中上健次の「路地」では血に呪われたような姦通や殺人まで起こるが、こちらは下級武士や庶民が政治や身分の理不尽がまかり通る狭い社会で生き抜く哀歓を自由に創る場として。一方で一茶や鷹山、白石などの伝記小説で心のバランスをとったのか。そこに共通するのは与えられた人生を誇り高く懸命に生きる姿なのだ。2022/02/14
信兵衛
25
こうして藤沢周平作品を通して語られると、私の中でも藤沢周平作品への記憶がきちんと整理されますし、また読みたいという気持ちがじわじわ込み上げてきますねー。2022/02/13
yyrn
23
これほど作者にほれ込んで、残された作品を読みこなし、共通項を見つけ出したり、または違いや変遷を指摘・論評できる人はそうそういないだろう(私が編集者でも即出版だw)。特に、たくさんの場面を関連付けて解説するその索引能力はただただ驚くばかり。電子書籍で関心のある箇所にタグを付けて後から集計する方法でも取らなければとんでもない作業だと思うが、論評者にはそれすらも楽しいのだろうか?脱帽です。▼藤沢周平の作品は、いずれも様々な制約の中で生きる人々を描いているが、でも幸せが感じられる場面もちゃんと用意されていて⇒2022/10/02
あきあかね
22
藤沢周平の多くの小説の舞台となる海坂藩。そこで描かれるのは穏やかな世界ばかりではなく、血なまぐさい政治や剣も描かれるが、藤沢の透明感のある文章にかかると、端正さ、清雅さが基調となる。 本書は、時代小説や市井小説、歴史小説、伝奇小説など藤沢周平の作品の素晴らしさを余すところなく伝えてくれる。著者が心震わされた文章が随所に引用されていて、物語の世界に惹き込まれる。 傑出した青春小説と言われる『蝉しぐれ』。「蛇に噛まれた少女の指。夜祭りの見物。そして江戸に行く前の夜、ふくが文四郎の家をたずねて行って、⇒2022/01/02
博多のマコちん
7
少しづつ読みました。まだ読んでない作品についは期待を膨らませながら、読んだことのある作品にはその時の感動を反芻しながら。抑制のきいた論評で、読み進めるうちに未読作品も既読作品も、藤沢さんの作品をこれからももっと読んでいきたい!、そんな思いにさせられる一冊でした。2022/04/05