出版社内容情報
記憶を失くした少女が流れ着いたのは、ノロが統治し、男女が違う言葉を学ぶ島だった――。不思議な世界、読む愉楽に満ちた中編小説。
内容説明
彼岸花の咲き乱れる砂浜に倒れ、記憶を失っていた少女は、海の向こうから来たので宇実と名付けられた。ノロに憧れる島の少女・游娜と、“女語”を習得している少年・拓慈。そして宇実は、この島の深い歴史に導かれていく。第165回芥川賞候補作。
著者等紹介
李琴峰[リコトミ]
1989年、台湾生まれ。作家・日中翻訳者。2013年来日。早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了。17年『独り舞』(講談社)(原題「独舞」)で群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。19年『五つ数えれば三日月が』(文藝春秋)が芥川賞、野間文芸新人賞の候補に。21年『ポラリスが降り注ぐ夜』(筑摩書房)で芸術選奨新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
457
第165回芥川賞受賞作。物語の舞台は御嶽とノロの存在から、明らかに沖縄(琉球)が強く意識されている。巻末の参考文献からすると与那国が直接のモデルのようだが、もちろんそこにフィクションが加えられていることは言うまでもない。その最大のものは、歴史伝承と祭祀に携わるのが女に限定されていることである。それは、男たちの戦い史観からの脱却を図ったが故であったが、やや図式的に過ぎるかと思われる。一方、象徴的な働きを担うのが彼岸花であるが、こちらはそれなりに有効に機能しているようである。⇒2024/12/17
starbro
421
第165回芥川龍之介賞受賞作&候補作第五弾(5/5)は、受賞作二作目、これでコンプリートです。李 琴峰、2作目です。独特の世界観、彼岸花が美しく咲く孤島の情景が身に浮かぶ作品、『貝に続く場所にて』よりも本作を評価しますが、MyBESTは、『水たまりで息をする』でした。 https://books.bunshun.jp/articles/-/6075?ud_book2021/08/20
パトラッシュ
350
法律も行政も軍隊もない島が、外国に干渉も占領もされないなど国際政治的にあり得ない。なのに外国と交易し、車や資材など生活物資を得ている。そんな設定に疑問を抱きながら読んでいくと、153頁にタイワンへ運ぶ彼岸花には麻薬としての用途があると記されていた。現実の彼岸花にそんな効能はないので、島で彼岸花と呼ばれている植物は実はケシではないか。いわば島は世界への麻薬供給地として、どこにも属さずにいるのを黙認されているのでは。とすれば本書は戦争の果ての時代の片隅に咲いた、徒花の平和を描いたディストピア小説になるのでは。2021/08/25
こーた
268
神話であり、SFでもあり、またジェンダーと〈ことば〉を巡る小説でもある。良くいえばいろんな読みかたができる、悪くいえばとっ散らかっている。ぼくは素直に青春小説として読んだ。後半の種明かし、〈島〉の歴史が明かされる展開は性急で勿体なかったが、明るさを取り戻すラストはさわやかで、希望の持てる閉じかたがよかった。これだけの世界と、言語まで構築できるのだから、もっと長くてもよかったのでは、とおもう。〈島〉を巡る物語を繋いでいってもいい。つぎはこの作家の描く大長篇を読んでみたい。2021/08/24
いっち
234
主人公は、島に流れ着いた少女。島の住人は、主人公の知らない言葉を話し、主人公には記憶がない。どこから来たかわからない主人公に、島のトップは出ていくよう言う。主人公を発見した少女やその親の頼みで、島流しは免れるが、島で行われる試験に通らなければならないと、トップは言う。試験を受ける予定だった少女と協力し、試験合格を目指す。沖縄のようで沖縄ではない、女性だけに与えられる役割が多い島。男性と女性で差があるのかと疑問に思いながら生活する主人公が、その理由を知ったときに出す結論が美しい。読んで良かったと思える作品。2021/06/28
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