出版社内容情報
記憶を失くした少女が流れ着いたのは、ノロが統治し、男女が違う言葉を学ぶ島だった――。不思議な世界、読む愉楽に満ちた中編小説。
内容説明
彼岸花の咲き乱れる砂浜に倒れ、記憶を失っていた少女は、海の向こうから来たので宇実と名付けられた。ノロに憧れる島の少女・游娜と、“女語”を習得している少年・拓慈。そして宇実は、この島の深い歴史に導かれていく。第165回芥川賞候補作。
著者等紹介
李琴峰[リコトミ]
1989年、台湾生まれ。作家・日中翻訳者。2013年来日。早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了。17年『独り舞』(講談社)(原題「独舞」)で群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。19年『五つ数えれば三日月が』(文藝春秋)が芥川賞、野間文芸新人賞の候補に。21年『ポラリスが降り注ぐ夜』(筑摩書房)で芸術選奨新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
410
第165回芥川龍之介賞受賞作&候補作第五弾(5/5)は、受賞作二作目、これでコンプリートです。李 琴峰、2作目です。独特の世界観、彼岸花が美しく咲く孤島の情景が身に浮かぶ作品、『貝に続く場所にて』よりも本作を評価しますが、MyBESTは、『水たまりで息をする』でした。 https://books.bunshun.jp/articles/-/6075?ud_book2021/08/20
パトラッシュ
336
法律も行政も軍隊もない島が、外国に干渉も占領もされないなど国際政治的にあり得ない。なのに外国と交易し、車や資材など生活物資を得ている。そんな設定に疑問を抱きながら読んでいくと、153頁にタイワンへ運ぶ彼岸花には麻薬としての用途があると記されていた。現実の彼岸花にそんな効能はないので、島で彼岸花と呼ばれている植物は実はケシではないか。いわば島は世界への麻薬供給地として、どこにも属さずにいるのを黙認されているのでは。とすれば本書は戦争の果ての時代の片隅に咲いた、徒花の平和を描いたディストピア小説になるのでは。2021/08/25
こーた
267
神話であり、SFでもあり、またジェンダーと〈ことば〉を巡る小説でもある。良くいえばいろんな読みかたができる、悪くいえばとっ散らかっている。ぼくは素直に青春小説として読んだ。後半の種明かし、〈島〉の歴史が明かされる展開は性急で勿体なかったが、明るさを取り戻すラストはさわやかで、希望の持てる閉じかたがよかった。これだけの世界と、言語まで構築できるのだから、もっと長くてもよかったのでは、とおもう。〈島〉を巡る物語を繋いでいってもいい。つぎはこの作家の描く大長篇を読んでみたい。2021/08/24
いっち
234
主人公は、島に流れ着いた少女。島の住人は、主人公の知らない言葉を話し、主人公には記憶がない。どこから来たかわからない主人公に、島のトップは出ていくよう言う。主人公を発見した少女やその親の頼みで、島流しは免れるが、島で行われる試験に通らなければならないと、トップは言う。試験を受ける予定だった少女と協力し、試験合格を目指す。沖縄のようで沖縄ではない、女性だけに与えられる役割が多い島。男性と女性で差があるのかと疑問に思いながら生活する主人公が、その理由を知ったときに出す結論が美しい。読んで良かったと思える作品。2021/06/28
ショースケ
228
彼岸花に覆われた海岸に打ち上げられた記憶を失った少女。薬草にするため、彼岸花を取りに来たヨナに助けられニライカナイから来たと言われ、宇美と名付けられる。島では中国語が混ざったようなニホン語を話す。ノロという島を仕切る女たちが女語(普通の日本語)を習う。島の歴史もノロだけが教えられる。それを知りたがる少年タツ。宇美はヨナとノロになり、島の歴史を聞く。読んでいる時、南特有の風や神秘的な景色の中に宇美と一緒に溶け込んでるような気持ちになった。これは単なるファンタジーではない。一種の警告のようなものを感じた。2021/10/04