内容説明
オリンピックの重圧、婚約者との破談、最期の日々に付き添った謎の女…。膨大な数の書簡、親族・関係者への取材から、日本中に衝撃を与えた自殺の真相に迫る―。著者渾身のルポルタージュ。
目次
はじめに 見えない力に導かれ
第1章 師弟愛
第2章 夢のあとさき
第3章 独裁者
第4章 転落
第5章 最期の九日間
第6章 謎の女
おわりに 君原と神立が手を携えて
著者等紹介
松下茂典[マツシタシゲノリ]
ノンフィクションライター。1954年石川県生まれ。明治大学卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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fwhd8325
61
円谷さんが遺書を残し、自死したことは、1月の寒い季節に衝撃的なニュースだったことは記憶に残っています。不運のヒーローと形容してしまうには、あまりにも無責任のように思います。寺山修司が語るように他殺であった。ひとりの才能あるアスリートを、自分の利得のために葬ってしまったのだと思います。この著書では、今まで知らなかった事実が著されていました。それは、あまりにも悲しく、国のためのオリンピックなら必要ないと思います。2020/07/15
trazom
40
円谷幸吉さんの自殺は、沢木耕太郎さんの「長距離ランナーの遺書」で衝撃を受けたが、この本の著者は、丹念に関係者を辿り、200通以上の幸吉の手紙を再読して真相に迫ってゆく。川端康成が「千萬言もつくせぬ哀切」と評したあの遺書が、幸吉が手紙を毎日書きに書いた結果としての文章力の賜物であることがわかる。幸吉の家族の愛情の深さ、コーチや友人たちの温かさが救いではあるが、愚直で純粋な幸吉を追い込んでゆく世間の圧力が怖ろしい。オリンピックには全く興味のない私だが、こういう悲劇を生み出すイベントに何の意味があるのかと思う。2019/12/16
aloha0307
24
幼少時 円谷幸吉さんが国民のヒーローであった余韻はまだまだありました。マラソン銅メダルだけでなく、1万メートルも6位入賞がすごいです。若くして自sせざるをえなかったこころの軌跡がぐいぐい迫ってきて、読む側も覚悟が必要です。不運で可愛そうなんかじゃない! 円谷さんは自らの人生を十分に生ききったのです。それにしても、自衛隊体育学校長:Y には許し難いものを感じました(婚約破棄もそいつが原因)小学校3年時、自衛隊官舎に同姓の人がいたけど、関係あるのかな...2020/04/05
柔
22
入浴時には肌着まで綺麗に畳み、きちんと積み重ねる。このエピソードからも伝わる生真面目な性格がゆえに「メキシコ五輪での金メダルは国民との約束」と自らをとことん追い込んだ。しかしそれだけではなかった。婚約破棄、師匠の別離「あのとき、円谷が結婚していれば絶対に死ぬことはなかった」とまでも言い切る人間もいた。公私共に東京五輪後は、度重なる苦労で悩む様が数々の手紙から伝わる。「幸吉はもうすっかり疲れ切って走れません。何卒お許し下さい。幸吉は父母上様の側で暮しとうございました」この遺書の一文には涙が止まらない。2021/08/21
チェアー
15
円谷幸吉が死に至る過程が、新発見の手紙を中心に検証される。走るのに疲れたこともあったが、もっと彼につらかったのは、走らない自分を認めない人々の存在だったのだろう。それは自分自身もそこに含まれてしまい、走らないことを許せなかったのではないか。突然、何もかもが嫌になり、コースアウトしてしまったのか。2019/12/05