内容説明
かつて漁業で栄えた養生島に、女がふたりだけで暮らしている。母親のイオさんは、九十二歳。海女友達のソメ子さんも、八十八歳。六十五歳のウミ子が、ふたりを見ている。
著者等紹介
村田喜代子[ムラタキヨコ]
1945年、福岡県北九州市八幡生まれ。77年に「水中の声」で九州芸術祭文学賞を受賞し、執筆活動に入る。87年、「鍋の中」で芥川賞。90年、「白い山」で女流文学賞。92年、「真夜中の自転車」で平林たい子賞。97年、「蟹女」で紫式部文学賞。98年、「望潮」で川端康成文学賞。99年、「龍秘御天歌」で芸術選奨文部大臣賞。10年、「故郷のわが家」で野間文芸賞。14年、「ゆうじょこう」で読売文学賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
149
離島に90歳前後の老女が2人。街なら一人前には暮らせない2人は、島で立派に務めを果たしている。遭難者にご飯を備え、読経し、密航者への辛うじての防波堤となる。鳥踊りをすると野生の鳥が群れる。島が活きる。役所の鴫さんのような仕事は、目立たないが尊い。村田さんの美しい文章に時折魂を奪われた 「空き家全体を覆っていた草の蔦がすっぽり抜けた… 巨きな人間の胸板のようなものが破れて、その引き裂かれた胸板のようなものが破れて、その引き裂かれた肋骨みたいな内側から贓物や血管が剥ぎ取られ、地面にぞろぞろと降り掛かってくる」2019/06/20
シナモン
140
「海の人間がどうして山さ行けるか」「今が一番悩みもねぇで安気な暮らしじゃ」国の外れの小さな島に住む92歳のイオと88歳のソメ子。自然は容赦なく厳しいし、国境ならではの心配ごともいろいろあるけれど、何が起きようと淡々とおおらかに逞しく毎日を送る二人が少し羨ましくもあった。海に暮らすというのはこういうことなんだなぁ。2022/05/22
ちゃちゃ
137
空と海が溶け合って一つになり、人の命が還ってゆく場所。国境に近い離島でたった二人で暮らすイオさん(92歳)とソメ子さん(88歳)。二人が天を仰いで踊る鳥踊りの描写がなんともユーモラスで心に沁みる。西の果て、時が止まったような島で、亡き人は鳥に姿を変えて訪れる。生死の境界が混じり合い魂の交歓が始まる。死は決して終わりではないのだ。心地よい海風に身を委ね海鳴りを聞きながら、軽やかに境界を飛び越えてゆく鳥のように、自由に豊かに生きることの幸せをしみじみと感じさせてくれる作品だった。第55回谷崎潤一郎賞受賞作品。2019/09/11
なゆ
116
村田さんは飛ぶのが好きだ。なんとも村田さんらしい世界が広がる。国境近くの小さな離島に住む、たった二人の住人イオさん92歳とソメ子さん88才。イオさんの娘ウミ子は本土の家に母親を引き取りたいのだが…。「海の人間が、どうして山さ行けるか」。二人の老女の仲睦まじい暮らしぶりは、危なっかしくもあるが幸せそうでもある。ただ、台風などの自然の脅威はもちろん、海からの密航者や密漁船という離島ならではの不安も。島に老女ふたりきりも問題なら、島がカラッポも困るんだそう。ああ鳥踊りを踊る二人は、ふーっと飛び立ってしまいそう。2019/06/10
モルク
114
九州の最西にある島の住人は二人の老女イオとソメ子だけ。かつては漁業で栄え男は漁師女は海女として生計を立てていた。この島にイオの娘ウミ子が母の今後を考えてやって来た。ウミ子の目を通して二人の生活様々な問題を知る。ほぼ自給自足でのんびり日長を…だけではない。一人でも住民が居れば自治体によるインフラ整備が必要となり、地理的にも国境問題を抱える。海が時化れば船は出ず災害では孤立する。でもこの老女たちの元には亡くなった者が鳥になって会いに来る。二人が踊る鳥踊りはこの世とあの世、空と海が混ざりあっていくようだった。2022/06/12