数学の大統一に挑む

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数学の大統一に挑む

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  • サイズ B6判/ページ数 488p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784163902807
  • NDC分類 410
  • Cコード C0098

出版社内容情報

まったく異なる数学のある命題を証明することが、別の数学のある問題を解くことになる。旧ソ連から出た天才数学者がやさしく書く。

xのn乗 + yのn乗 = zのn乗

上の方程式でnが3以上の自然数の場合、これを満たす解はない。
私はこれについての真に驚くべき証明を知っているが、ここには余白が少なすぎて記せない。

17世紀の学者フェルマーが書き残したこの一見簡単そうな「フェルマーの予想」を証明するために360年にわたって様々な数学者が苦悩した。

360年後にイギリスのワイルズがこれを証明するが、その証明の方法は、谷村・志村予想というまったく別の数学の予想を証明すれば、フェルマーの最終定理を証明することになるというものだった。

私たちのなじみの深いいわゆる方程式や幾何学とはまったく別の数学が数学の世界にはあり、それは、「ブレード群」「調和解析」「ガロア群」「リーマン面」「量子物理学」などそれぞれ別の体系を樹立している。しかし、「モジュラー」という奇妙な数学の一予想を証明することが、「フェルマーの予想」を証明することになるように、異なる数学の間の架け橋を見つけようとする一群の数学者がいた。

それがフランスの数学者によって始められたラングランス・プログラムである。

この本は、80年代から今日まで、このラングランス・プログラムをひっぱってきたロシア生まれの数学者が、その美しい数学の架け橋を、とびきり魅力的な語り口で自分の人生の物語と重ね合わせながら、書いたノンフィクションである。

〈目次〉

はじめに 隠されたつながりを探して

数学の世界で過去半世紀の間に生まれたもっとも重要なアイディアが、ラングランズ・プログラムだ。大きくかけ離れて見える数学の各領域のあいだに、さらには量子物理学の世界にまで、胸躍る魅力的なつながりがあるという刺激的な予想だ。

第1章 人はいかにして数学者になるのか?

旧ソ連のロシアに生まれたわたしは、量子物理学者になりたかった。クォークを発見した物理学者のゲルマン。でも、ゲルマンはなぜ、それを発見できたのだろう。「そこにはきみの知らない数学がある」。両親の古い友人の数学者が言ったのだ。

第2章 その数学がクォークを発見した

その両親の友人の数学者は、クォークの発見に、対称性とは何かを記述する「群」という数学が関係していたことをわたしに教えた。観察ではなく、理論によって何かの存在を予想する。それは数学にしかできない。

第3章 五番目の問題

ソ連のパスポートには五番目の欄にナショナリティーを記すことになっていた。わたしはロシア人として登録をされていたが、父はユダヤ人であった。このことが、モスクワ大学の受験に問題となる。

第4章 寒さと逆境にたち向かう研究所

モスクワ大学の試験官が問わず語りに口にした「石油ガス研究所」。わたしたち一家は、そこに一縷の望みをかける。そこは旧ソ連の中でユダヤ人が、応用数学を学べる研究所だった。全体の反ユダヤ政策のニッチをつき、優秀な学生をあつめていたのだ。

第5章 ブレイド群

アドバイザーを得られずに失望していたわたしに、学校でもっとも尊敬される教授が声をかけてきた。「数学の問題を解いてみたいと思わないかね」。それが、「ブレイド群」と呼ばれる数学に取り組んでいるフックスとの出会いだった。
第6章 独裁者の流儀

フックスの与えた問題を、わたしは別の数学を使うことで解いた。フックスは、その証明をあるユダヤ人数学者が主宰する専門誌に投稿することを勧める。その数学者こそ、様々な数学間の架け橋をかけようとしていたパイオニアだった。

第7章 大統一理論

それぞれの数学を「島」だと考えてみよう。大部分の数学者はその島を拡張する仕事
にとりくんできた。しかし、あるとき、「島」と「島」をつなげることを考えた数学者が現れた。悲劇の数学者ガロアが死の前日に残したメモにその革新的な考えはあった。

第8章 「フェルマーの最終定理」

ラングランズ・プログラムがどういうものかを知るには、「フェルマーの最終定理」
がどうやって証明されたかを知るといい。三百五十年間にわたって数学者を悩ませた
難問は、まったく別の予想を証明することで解けたのだ。

第9章 ロゼッタストーン

数論と調和解析のあいだだけではない。幾何学や量子物理学にいたるまでまったく違うと思われていた体系に密接な関係があるらしいことがわかってきた。そのことの意味は、ある領域でわからない事柄も他の領域を使って解くことができるということだ。

第10章 次元の影

写真は実は時間という次元を加えた四次元の世界を二次元におとしこんでいる影と考えることができる。数学は四次元以上の高次元を、三次元、二次元の世界におとしこみ記述することで、より複雑な世界を理解する唯一のツールなのだ。

第11章 日本の数学者の論文から着想を得る

日本の数学者脇本の論文から得た着想を一般化することはできるのか? 一度は失敗したその試みを、生涯の共同研究者となるひとりの数学者との出会いが突破させる。その仕事は、量子物理学の複雑な問題を解く強力なツールを提供することに。
第12章 泌尿器科の診断と数学の関係

フックスやフェイギンと純粋数学の境界を拡張する仕事に挑む一方、わたしの所属す
るケロシンカの応用数学部では、泌尿器科の医者たちとの共同研究をしていた。医者
は、数学者の思考方法を求めていた。それは診断にも応用できるものなのだ。

第13章 ハーバードからの招聘

ゴルバチョフの登場とともに、これまで固く閉ざされていた西側への扉が開きはじめた。そんなとき、わたしはハーバードから客員教授として招聘をうけ、生まれて初めてソ連の外に出た。ボストンには数学の才能が集り、心ときめく熱い時間があった。

第14章 「層」という考え方

新しい仲間、ドリンフェルドもまたソ連の反ユダヤ人政策の犠牲者だった。後にフィ
ールズ賞を受賞する彼は、モクスワに仕事を得ることすらできなかった。しかし、孤独
の中で彼が発展させたのは、リーマン面を大統一に組み入れる「層」という考えだった。

第15章 ひとつの架け橋をかける

博士論文は、リー群Gとラングランズ双対群LGという異なる大陸に橋をかけることに関する仕事だった。それはわたしがモスクワでとりくんでいたカッツ- ムーディー代数を利用することによって可能になるのだった。ソ連の崩壊が目前に迫っていた。

第16章 量子物理学の双対性

純粋数学史上初めての巨額の研究資金が下りた。わたしはプリンストン高等研究所で、数学と量子物理学のつながりを探るためのプロジェクトを始めることにした。それは、数学が現実の世界を先取りしていることを確認する過程でもあった。

第17章 物理学者は数学者の地平を再発見する

最大の挑戦は、ラングランズ・プログラムに四つ目のコラムを打ち立てることだ。すなわち量子物理学との関係を調べることである。多次元の問題を二次元、三次元にお
としこみ、その試みが始まる。物理学者は数学者の発見した空間を再発見する。
第18章 愛の数式を探して

二〇〇八年、わたしはある映画監督とともに、数学に関する映画を作り始める。三島
由紀夫の『憂国』に影響をうけた映画のワンシーン。女性の体に彫った刺青は、「愛
の数式」だ。それは、量子論の矛盾を解く可能性のある数式でもあった。

エピローグ われわれの旅に終わりはない

訳者解説 数学者はあきらめない

内容説明

憧れのモスクワ大学の力学数学部の試験に全問正解したにもかかわらず父親がユダヤ人であるために不合格。それでも少年は諦めず、数学を学び続けた。「ブレイド群」「リーマン面」「ガロア群」「カッツ・ムーディー代数」「層」「圏」…、まったく違ってみえる様々な数学の領域。しかし、そこには不思議なつながりがあった。やがて少年は数学者として、異なる数学の領域に架け橋をかける「ラングランズ・プログラム」に参加。それを量子物理学にまで拡張することに挑戦する。ソ連に生まれた数学者の自伝がそのまま、数学の壮大なプロジェクトを叙述する。

目次

はじめに 隠されたつながりを探して
人はいかにして数学者になるのか?
その数学がクォークを発見した
五番目の問題
寒さと逆境に立ち向かう研究所
ブレイド群
独裁者の流儀
大統一理論
「フェルマーの最終定理」
ロゼッタストーン
次元の影
日本の数学者の論文から着想を得る
泌尿器科の診断と数学の関係
ハーバードからの招聘
「層」という考え方
ひとつの架け橋をかける
量子物理学の双対性
物理学者は数学者の地平を再発見する
愛の数式を探して
われわれの旅に終わりはない

著者等紹介

フレンケル,エドワード[フレンケル,エドワード] [Frenkel,Edward]
1968年に旧ソ連のコロムナという地方都市で生まれる。高校時代は量子物理学に興味をもつが、両親の友人である数学者の手引きで数学の魅力に目覚める。父親がユダヤ人であるため、モスクワ大学の入学試験では、全問正解したにもかかわらず不合格となり、やむなく石油ガス研究所(日本でいうところの工業大学)に入学し、応用数学を学ぶ。だがその一方、ひそかに純粋数学の研究を続け、また学部在学中に、運よくソ連国外に出た論文が認められてハーバード大学に客員教授として招かれる。カリフォルニア大学バークレー校の数学教授

青木薫[アオキカオル]
1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。翻訳家。「幅広い層に数学への興味を抱かせる本を翻訳して、数学の普及に大きく貢献している」として2007年度の日本数学会賞出版賞を受賞している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

mae.dat

250
邦題は力の統一理論と重ねているね。物理のそれが数学ではラングランス・プログラムって言うの。数学と一括りにするけど分野は多岐に渡り、文化や背景も様々なんだね。これを儂なりに解釈すると、地球上の言語を統一しようまいって事かな。英語? 中国語? エスペラント⁇ やり方は数学のそれとは違うけど上手く行かないよ。そう言うチャレンジングな試み・営み。同時に数学への誤解を解きたいと言う動機ね。学校で学ぶ数学は古典迄なんだって。例えばピカソやゴッホに触れないで、全ての芸術の感動を与えられるかって話。紙幅の問題が。ががが。2025/03/09

absinthe

163
この手の本は難しい。解るところは優しく書かれ過ぎていて、解りにくいところとのギャップが大きい。でも雰囲気は確かに伝わった。数学は愛すべき対象で計算の間違いをなくすような作業は数学の本質とはかけ離れている。背後に隠れた真実を暴きだそうとするその姿は、むしろ芸術を思わせる。理性よりも感性をより重んじる学問なのだろう。原題の方が内容にあっている。ずっと積読本だったが読了。absintheは満足した。手放しでオススメはしにくいが、読みごたえはあるので気が向いたらどうぞ。2017/02/17

trazom

96
私には「青木薫さんが翻訳される本は絶対に面白い」という確信があるが、本書も、その期待を裏切らない抜群の内容。旧ソ連生まれの数学者が、苛烈なユダヤ人差別に苦しみながらも天才を開花させ、ハーバード大学に招かれる半生はドラマティックである。研究テーマは、代数、幾何学、数論、調和解析などの数学分野の大統一を目指す「ラングランズ・プログラム」。数論から有限体上への曲線、そして、リーマン面へと広がってゆくラングランズ・プログラムが、双対性をキーワードとして、量子物理学との統一を目指す物語は、スリル満点でワクワクする。2021/06/01

やいっち

62
書店で題名を見た時、宇宙論(素粒子論)ならともかく、数学でまさかと思ったが、「ラングランズ・プログラム」で、数論、幾何学、解析学など、ほとんど独自に発達し細分化したそれぞれの分野の底に、それらを繋ぐ、普遍的な構造がある、という洞察があるようだ。これは物理学とも無縁ではないし、むしろ超ひも理論とも絡み合っている。なんてことは別にして、若き数学者のまさに彼ならではの情熱に満ちたドラマを体験する楽しみこそが本書の魅力だ。数学の神秘を自分のような数式(数学)音痴の小生にも感じさせてくれる。2016/05/16

Sam

54
到底無理と分かっていても世界を少しでも俯瞰的・構造的に理解したいという思いがあるせいか、数学は苦手なのに「大統一」などと聞くとつい手にしてしまう。本書は数学において一見無関係に見える様々な領域の基礎に潜んでいるはずの基本構造(いわば数学の「ソースコード」)を探る「ラングランズ・プログラム」に取り組む数学者の話。ユダヤ人差別を乗り越えて一流の数学者になっていくストーリーは感動的だし、筆者の数学に対する熱くて揺るぎない思いがよく伝わってくる。数学的な説明はさっぱり理解できなかったけどこれはもうやむなし。2021/10/06

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