出版社内容情報
早期退職して故郷に帰った55歳の男が静かに狂い、自らの手を汚してゆく。善と悪、罪と罰がソリッドな文体で交錯する“本物”の文学。
内容説明
貴方は善人のまま死ねますか?最先端を走り続ける丸山文学が大胆に斬りこんだ悪と罪の荒野。これは救済の哲学なのか、それとも狂気―。
1 ~ 1件/全1件
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乱読で活字が躍る本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
121
イキルとは誰だ、彼は何をしていたのか。わからないのは、その村に住むもの全員だろう。詮索はしないのにすべてを知っているような隣人たち。イキルは本当に潰れてしまったのだろうか。すべては主人公の、静かに狂っていた主人公が見ている白昼夢なのかもしれない。最後のシーン以外は。2016/08/04
白のヒメ
50
人間は心中で常に二つの両極の間で揺れて生きているものだけれど、主人公の揺れ方があまりに自虐なわりには、まだまだ自分は何者かになれるのではないかと他力を願ったりする図々しさがありそれが非常に鼻につく。イキルという不思議な少年暗殺者の正体は一体なんだったのだろうという解決は別に求めないけれど、おっさん主人公の自虐がどういう振れ幅で収束するのかと思って読み進めたら、思い切り潔い自滅へとつながっていて思わずラスト「見事!」と叫んでしまった。ここまでヘタレだともう美しいです。本当に面白い小説でした。2016/07/11
竹薮みさえ
4
この過剰な言葉の群れ。思想にいたらぬ言葉の群れと思想を凌駕した若い肉体。言葉の群れにおぼれながら、善悪を越えた肉体に焦がれる主人公。思想なき膨張した呪詛を吐く母親。なんとも。ここまで言葉にまみれることを、わたしはあっけにとられて眺める。すこしは大人になったのか。もう一度繰り返そう。ほんとに男ってのは。2013/05/27
マリ
4
何を考えているのかわからない不気味な人が多い。家族を大事に思ったかと思えばすぐに翻意したり、自棄になったりする主人公。人間の意志なんて一瞬で変わったりするものだろうけどこんなにも繰り返しのぶれがあるなんて、最期まで不思議な人だった。赤子を見ながら自身も胎児のように死にゆく最期が美しかった。2013/03/04
花
4
私たちは皆、悪を抱いた赤子なのかな。水面越しに揺らめく月と体を包む温かい水とを想像して、何だか他者への愛と祈りを思いました。2012/02/29