出版社内容情報
早期退職して故郷に帰った55歳の男が静かに狂い、自らの手を汚してゆく。善と悪、罪と罰がソリッドな文体で交錯する“本物”の文学。
内容説明
平身低頭の30年間を過ごした会社を早期退職した「私」。故郷を見下ろす村営住宅に転居し、のどかな風景のなかで哲学書を片手に、真の自分自身を取り戻そうする男が、静かに狂っていく―いまだ善を知らず、いずくんぞ悪を知らん。
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乱読で活字が躍る本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
119
55歳で早期退職し、忌むべき実家を望む山の集落に大量の本とともに越してきた主人公。彼は両親を語るのに呪詛の言葉をもってする。おそらくは理由もわからないままに持ち続けてきた両親に対する嫌悪の理由がわかった時に、主人公の何かが壊れたようだ。隣に住む25歳のイキル。澄んだ目をした残虐な少年。そして人のいい老夫婦。土地生まれの青年。みな、不可解なまま仲良くまとまっている集落。弟を気遣いながら両親の介護を一手に引き受ける兄夫婦も不可解で、不気味だ。2016/08/04
白のヒメ
49
孤高を気取る人間は「生まれる時も一人、死ぬ時も一人」と語る。それは生まれたばかりの赤ん坊は一人では一日たりとも生きられない事を想像できない拙い者が恥ずかしげもなく語る事。55歳の主人公はさすがにその辺の事は分かってるし、悠々自適の早期退職者が田舎に隠遁する体を楽しむ風を装うのだけれど、本心は己の孤独さに自虐の毎日だった。しかし、隣人の25歳の青年の不穏な行動に、さび付いた主人公の心臓が鼓動を始める。今更ながら、人生とはなんぞやの答えが見つかるかもしれないと。他人事とは思えない。洒落にならんです。下巻へ2016/07/07
うえうえ
18
「ときめきに死す」の語り手のように人生で挫折しダメージを受けた男が、すぐそばにいる異様な存在に影響されていく。下はどうなるのだろう。途切れのない軽くない文章を読むのにエネルギーがいる。2020/09/13
竹薮みさえ
4
ここ2、3日じりじりと通勤中に読んでいたが、本日お風呂で一気に上巻を読了。もうここまで自意識を点検されるとひれ伏すしかない。どうしましょう。自分をなげださないってのはこういうことかと思うが、それにしても。 2013/05/26
風眠
4
ピントが合った、と思ったらまたぼやける、を繰り返しているような作品だった。難しい言葉が割りとたくさん出てくるので、読むのには体力と、多少の覚悟が必要かもしれない。無人のお寺で狂気の発作が起こるところの文章は圧巻です。