出版社内容情報
思想界をリードする俊鋭批評家が国家、民族、議会制民主主義などの根源的諸問題を、時事にからませて明解に論ずる、注目の発言集
内容説明
ネーション=ステート(近代国家)の出現は、歴史的にみてもごく新しい。そして、その成立に決定的な役割を果たしたのが「国民文学」だった。徹底的にして明晰な試論集。
目次
帝国とネーション
議会制の問題
自由・平等・友愛
近代の超克
文字論
双系制をめぐって
自主的憲法について
韓国と日本の文学
湾岸戦時下の文学者
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
なお
1
初めて読んだ柄谷さんの本。講演録を元にして加筆されたものなので比較的読みやすかった。そもそもの言葉の定義から始まり。日本にはいい加減な二重構造があったこと。ネーションも国家も近代以降に作られた想像物であるのでナショナリズムは神話であることもわかった。明治から昭和(終戦まで)は科学技術を除けばそれほど違いのない時代だと思っていたので、新しい見識が広がった。2016/06/14
mori-ful
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冷戦崩壊直後の講演録。要約力がすごい。戸坂潤を引き、私的所有権は哲学的文学的自由に先行すると指摘して、フランスはイギリスの自由を観念的に模倣したもの、フランスは官僚国家でありフーコーの仕事も自由主義としているなど、自由主義への評価が高い。自由・平等・友愛は「歴史的に産業資本主義のなかにある」と現実の資本制の中で生まれてきたものだという指摘は鋭い。資本主義の矛盾により、これらの観念の矛盾もまた生じ、ファシズムの復活を予言。そのときに抵抗しうるのは「社会民主主義者ではなくて、頑固な自由主義者だけ」と。2024/08/03
Mirror
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言文一致が話し言葉ではなく書き言葉によって作り出されたたとう視点。漢語の翻訳から発生した日本語のエクリチュールは方言によるコミュニケーション不全の解消として膾炙したという説は面白い。ヨーロッパにおいてもラテン語を基にダンテがイタリア語を、ルターがドイツ語を、デカルトがフランス語の基礎をつくったという「翻訳」の重要性。そして日本語の漢字仮名交じりに由来する日本的心理の指摘。それゆえに日本人は「無の場所」を獲得し、思想の軸を消してしまっているという説はほんとに興味深い。柄谷行人の簡潔な良著。2023/03/10