内容説明
矢を射た男と、扇をかざした女。男は女を欲し、女は海に囚われた。落日の平家をめぐる女人たちを華麗な筆致で綴る第87回オール讀物新人賞受賞作収録の処女短編集。
感想・レビュー
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yoshida
138
平氏と源氏の栄枯盛衰に纏わる短編集。どの短編も遺された女性側からの視点で書かれている。源義朝の妻であり九郎義経の母である常葉の再嫁と、新しい家族に心を開く様子。鹿ヶ谷事件で配流された成経と島の娘であるミチの恋と別れ。那須与一と扇を掲げた松虫の哀しい因縁。静御前と北条政子の交流と訪れる別れ。息子とそう変わらぬ年端の平敦盛を討ったことに懊悩する熊谷直実。檀ノ浦で義経の虜となり京で隠棲する建礼門院徳子の、後白河法皇への意地と、平家一門を偲んで生きる事への強い決意。綺麗な日本語。儚くも味わいのある作品集です。2017/05/21
さつき
78
常葉、静、徳子など源平騒乱の時代を生きた女たちを描く短編集。身分も立場も様々ながら、流転辛苦の身の上は同じ。女であることの辛さ、自分の生きる道を選びとることの難しさが胸に迫ります。特に『平家蟹異聞』は彼女達がいったい何をしたというのか…思わず憤りを覚えるほど切ない。『後れ子』の徳子は、見に余るほどの栄華を失ったことでむしろ生き甲斐を得られたのでしょうか。周囲の人と異なる時間の中で生きているような彼女の姿には安らぎを覚えます。2022/07/27
巨峰
63
もののあわれって言葉ができたのは平安時代だとおもうけど、ぴったりくるのは源平合戦の頃だなと思う。大きな歴史の流れの中で運命を狂わされた小さな人たちの短編集です。2018/08/16
はつばあば
50
読み友「おか」さんに感謝!。久し振りに本らしい本を読ませてもらえた。「源平盛衰記」が子供の頃の愛読書。おませだったのでしょう。栄枯盛衰は世の習いとは言うが、そこでふりまわされた流転辛苦の女性達、常盤、静御前、建礼門院徳子他3人。北条政子と平時子、世に言う女傑も人の親であり女であった。流人の俊寛痛ましい・・・。2023/06/24
鯖
22
BSで「常磐は悪女か」という特集をやっていて、とても不機嫌になり、他人様にこの本を薦め、ついでに自分でも読む。あの時代に善人たることも悪人たることも、たかが一人の女が自分で選べたら誰も苦労しなかったろうに。この本に収められている「常磐樹」は義経たちの母、常磐御前が清盛の妾となって子を産み、その子とも引き離されて、様々な樹を育てることが得意な、皇后大夫紀長成に嫁ぐ話。何回読んでもいいお話で、常磐が本当にこういう生涯を送れていたならいいなあと祈りたくなる。全6編全てがいいお話ですので、源平クラスタさんは是非。2015/05/07