内容説明
壊されてはならない。大切な言葉を、本当の名前を。彼女の名は「マドモアゼル鶴子」、場末の劇場で受けない漫談を演っている。外から流れこむ映画のセリフが漫才を損ない、九官鳥がくりかえす言葉は意味を失い、芸人たちは壊れていくが、鶴子は…。文學界新人賞受賞作「初子さん」収録。
著者等紹介
赤染晶子[アカゾメアキコ]
1974年、京都府宇治市生まれ。京都外国語大学卒業、北海道大学大学院博士課程中退。2004年、「初子さん」で第99回文學界新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yumiha
40
表題作よりも「初子さん」が私のツボだった。京都を評しての「歴史や伝統を背負ううちに、水が水銀になった」「何も知らない外の人間から見ると、いつまでも美しい水に見えるのは本当は水銀だからである」という見方は、うならされた。京都という町に憧れる人は多いのだろうが、実は何やら重苦しいしきたりやら価値観やらが底流にあることを「水銀」に喩えたセンスに敬服する。他にも作者赤染晶子の物事を見抜く鋭さが散見できる。「うつつ・うつら」は、九官鳥が得てゆく言葉は音に過ぎないが、赤ん坊は世界までも鷲掴みというのが印象に残った。2021/03/30
みねたか@
36
大阪の場末の劇場を舞台にした表題作。やや冗長な感はあるが,閑散とした客席を相手に同じネタや噺を繰り返すうち,芸を失い,自分自身も失われていく様には冷え冷えとした恐怖を覚える。もう一編の「初子さん」は,昭和50年代の京都が舞台。大好きな洋裁を生業としたのに変わらない日常にいつしか疲れを覚えてきた初子さん。同世代の若奥さんの苦しさに触れ,熱発した実家の母の看病をするうちに,彼女が自分を見つめなおす様を描く。下宿のパン屋親子,お客さんたちとのやり取りも丁寧に描かれ、心を温かくしてくれる。2022/05/06
shikashika555
27
シュールというかマジックリアリズムというか。 この物語を生み出す奇才よ。 彼女を知ったのは『じゃむパンの日』(palmbooks刊)。 かわいらしい装丁と判型に惹かれて手にとったのだった。 そのエッセイとはまた別物の物語がこの本では味わえる。 味わうのか向こうから飛び込んでくるのを驚きながら咀嚼しても追いつかないのか、よくわからないが とにかく己の価値観が撹拌されるような読み心地である。 村田沙耶香好きの方なら、赤染晶子もハマるのではないか。 残念ながら鬼籍に入られておりもう新たな作品は読めない。2025/05/04
橘
25
読んでいてとても苦しくなりました。文章は読みやすいのですが、描かれる世界が重く沈み込んでいて、どこにも行けない哀しみがありました。鮮やかに、醜く歪んでいました。でも嫌いではなかったです。むしろ、動けない感じが好きでした。2016/02/18
おおにし
15
『乙女の密告』は面白かったが、こちらの2作は読むのがしんどかった。作者の描く世界観は理解不能でどこか破綻しているのだが、そんなことお構いなしにぐいぐい迫ってくるパワーは十分伝わってきた。脳内に充満するイメージをどうにか言葉であらわそうとする熱量はすごい。そんな感想しか書けない作品。2025/04/26