内容説明
インパール戦線から帰還した男はひそかに持ち帰った拳銃で妻と情夫を撃つ。出所後、小豆相場で成功し、氷に鎖された海にはほど近い“司祭館”に住みついた男の生活に、映画のロケ隊が闖入してきた…。現代最高の幻視者が紡ぎぎ出す瞠目の短篇世界。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
1930年京城生まれ。東京女子大学外国語科中退。児童小説でデビューし、73年「アルカディアの夏」で第20回小説現代新人賞、85年「壁―旅芝居殺人事件」で第38回日本推理作家協会賞長編賞、86年「恋紅」で第95回直木賞、90年「薔薇忌」で第3回柴田錬三郎賞、98年「死の泉」で第32回吉川英治文学賞を受賞。ミステリーから幻想小説、時代小説など幅広いジャンルにわたり活躍を続ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
🐾Yoko Omoto🐾
133
皆川作品初読み。戦前から戦後の混沌とした時代を背景に、身分や家柄、律された家族関係という当時の慣習と、戦争が生む理不尽で残酷な終焉を巧みに織り混ぜた8つの掌編。戦争の直截な描写が控えめなればこそ、より人生を翻弄された人々の思いが活写された印象で、正気ではとても生きられぬ時代に求めた夢幻が大きな悲しみを誘う。マイベストは、生きる価値を見出だせなくなった悲しみに胸がつまる「遺し文」「蝶」。美しく官能的な描写に喪失からの絶望と哀れが色濃く滲む「幻燈」「妙に清らの」。繊細でそこはかとなく退廃的な世界観を堪能した。2018/04/14
naoっぴ
75
この衝撃と余韻、これで短編か。凄艶という言葉がぴったりの、極彩色の額で彩られた絵画のような幻想小説。私が小さい頃、アブラムシの蠢くレタスサンドイッチを「こんなものだよ」と父がムシャムシャ食べていた怖い思い出がよみがえった。後にこれは私の記憶違いだったことを知ったけれど、そんな幼い頃にありがちな夢と現実のない交ぜになった歪んだ感覚を、濃密に妖艷に描き出す皆川さんの手腕にただただ唖然。「空の色さえ」の怪奇にゾクゾク、「幻燈」のラストの衝撃には顎が落ちた。短編らしからぬ圧倒的な余韻に茫然。2016/04/03
★Masako★
70
★★★+ 久しぶりの皆川さん作品♪ ハイネや薄田泣菫等の詩歌をモチーフにした八篇からなる短編集。戦前~戦後という暗雲漂う「死」が隣り合わせの時代を背景に、少女・少年の目で描かれた妖しく哀しく恐怖をも感じる物語ばかり。1篇目の「空の色から」から引き込まれ、「龍騎兵は近づけり」「幻燈」「遺し文」は特に秀逸。200ページ程の厚さの作品ではあるが、皆川さんの美しい文章と世界観にどっぷり浸れた♪ 2019/02/15
文庫フリーク@灯れ松明の火
68
槍のような 細く鋭い傘の石突き 柔らかいものを突き刺した手応えは どろりとした血は 合歓の花をゆする風に飛散する 想ひ出すなよ 想ひ出すなよ 硬い飴のような義眼 舌で絡め取る女 膝枕した男の眼窩へと 紫陽花埋ける女 妙に清らの 妙に清らの 胸に喰いつく勲章は 鬼ヤンマが首 バグパイプは傷痕残した勝男の体 龍騎兵は近づけり 龍騎兵は矢の如し お仕えする奥様は黒焦げの木偶となり 隠微な夜は幻燈の如く 空の色さえ陽気です 時は楽しい五月です さても幻想 はても幻想2012/01/11
みも
49
各篇20頁程・8編の短編集。品格のある流麗な文体で綴られ、文句無しに美しい筆致。思わず音読する。その音読が実に心地よく心の琴線に響く。全作品に整然と巧妙に詩句を組み込み、それらの詩句の優美さが更に格調を高める。戦前・戦中・戦後の殺伐混沌とした時代を、少女・少年の繊細でゆかしい目線で郷愁的懐古調で語り、朧に霞む琥珀色の映像を、子細で丹念な描写により明晰にする。戦争が及ぼす死の暗影よりは、ブルジョアの頽廃的な匂いや甘美で感傷的な憂愁と、典雅で幽玄なベールが作品集全体を支配する。『空の色さえ』『遺し文』が秀逸。2017/09/07
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