内容説明
「古代ギリシア、アテネ。野犬に食い殺されたとおぼしき若者の死体が発見される。だが不審を抱いた者がいた―“謎の解読者”と異名をとる男、ヘラクレス。調査に乗り出した彼の前に現われるさらなる死体。果たしてこの連続殺人の真相は…」という書物『イデアの洞窟』。その翻訳を依頼されたわたしは、物語世界を傷つけかねない頻度でちりばめられた象徴群に不審を抱く。ギリシアで「直観隠喩」と呼ばれた技法だった。だが『イデアの洞窟』のそれは過剰すぎた。やがて身辺に怪事が頻発しはじめ、わたしは何者かに監禁されて…という異形の形式が驚愕の結末へと読者を導く破格のミステリ。めくるめく謎の迷宮に「作者探し」の興趣も仕込む、イギリス推理作家協会最優秀長篇賞受賞作。
著者等紹介
ソモサ,ホセ・カルロス[ソモサ,ホセカルロス][Somoza,Jos´e Carlos]
1959年キューバに生まれる。現実と虚構、夢、狂気、記憶などを題材に、マジックリアリズムの手法でミステリアスに語る。『イデアの洞窟』で、イギリス推理作家協会最優秀長篇賞受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
拓也 ◆mOrYeBoQbw
24
奇想長篇。アンチミステリー。メタフィクション。ギリシア時代の翻訳文と、翻訳者による訳注で二つの物語が語られる小説ですね。手法はボルヘスやナボコフ、コルタサルからの影響が強く、逆に彼らの作品に慣れているとサクサク読み進められる一冊。”ギリシア時代の登場人物が翻訳者に話しかけてくる”など、メタフィクション初体験の読者には驚きの展開が続きますがw、ギリシア時代も現代もストーリーは明解でわかりやすく、むしろ20世紀のメタフィクションよりは入門に丁度かもしれません(・ω・)ノシ2017/09/22
紅はこべ
14
舞台は古代ギリシャ。プラトンが登場する。ナボコフの『青白い炎』の流れを汲むミステリらしいということで、難解なのは覚悟したが、意外と読み易かった。あるテキストに加えられた注釈が新たな物語を生むというタイプ。この手の小説は好きだ。2008/08/05
きゅー
12
「イデアの洞窟」とそれを翻訳する「私」という二重の枠構造になっていおり、「私」は物語中のあらゆるメタファーに意味を見出そうとし、解釈の縺れた糸に絡め取られていく。脚注が本文を侵食していくメタフィクション的趣向ということで、『紙葉の家』、『中二階』等を彷彿とさせたが、読み終えてみると物足らなさが残る。最後の12章でどんな仕掛が待っているのかと楽しみにしていた分、これか……とがっかりしてしまった。あとがきでも書かれているようにミステリ、メタフィクションと思うより、SFと思って読み始めるといいかもしれない。2013/07/04
maimai
6
★★★★ これ好き。かなりねじくれたメタフィクション。というかアンチメタフィクション。「メタフィクション」に「アンチ」がついた時点でそれは不可避的に「メタフィクション」なのだが。2011/10/18
聖月
4
▲当時の職業として、詩人だとか、哲学者だとか出てくるのだが、主人公ソクラテスの職業は解読者。ふ~ん、当時はそんな職業概念があったのかと思って読んでいると、どうやら解読者の仕事は謎(エニグマ)の解読であり・・・な~んだ、探偵じゃないか。最初に内臓を喰らわれた青年の死体が見つかり、その後幾重にも連なる犠牲者たちの出現。その真相や如何に、と思って読んでいると、翻訳者による脚注が、段々本文を侵食しはじめ・・・メタの中でも形而上メタに近いのかな。2005/10/15