内容説明
考えてみれば、ロシア帝国は負けるべくして負けようとしている。―旅順陥落。世界の関心は「ロシアはなぜ負けるのか」にあった。しだいに専制国家としての陋劣さを露呈するロシア。「旅順艦隊全滅す」の報は、マダガスカル島の漁港に留まり続けるバルチック艦隊にも届いた。そして最大規模の総力戦、奉天の開戦で両軍は死闘する。
著者等紹介
司馬遼太郎[シバリョウタロウ]
大正12(1923)年、大阪市生れ。大阪外国語学校(現・大阪外語大)蒙古語科卒業。昭和35年、「梟の城」で直木賞受賞。41年、「竜馬がゆく」「国盗り物語」で菊池寛賞受賞。47年、吉川英治文学賞受賞。51年、日本芸術院恩賜賞受賞。56年、日本芸術院会員。57年、「ひとびとの跫音」で読売文学賞受賞。59年、新潮日本文学大賞学芸部門賞受賞。62年、「ロシアについて」で読売文学賞受賞。63年、「韃靼疾風録」で大仏次郎賞受賞。平成3年、文化功労者。5年、文化勲章受章。8(1996)年2月12日逝去
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感想・レビュー
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mitei
325
児玉源太郎が組織的には非常の手段で乃木から指揮権を取り上げて旅順を陥落させたところが見せ場。ロシアもロシアで問題だらけだったんだな。2017/05/06
旅するランナー
249
今さらなんですけど、この作品は秋山兄弟とかの個人ではなく、日露戦争という巨大な怪物が主人公なんですね。司馬先生が調べあげられた、この戦争を多角的包括的総合的に捉える数々の情報を読み取ることができます。バルチック艦隊の不動、革命煽動・軍事諜報・破壊活動のための明石元二郎の暗躍、クロパトキン総司令官の右往左往など、奉天会戦に突き進む情勢を細かく知ることができて興味深いです。2021/01/24
けろりん
48
舞台は日露戦争における事実上の最終決戦、奉天会戦へと。世界戦史における最大な規模で行われたこの戦いを描写しつつ、作者の筆はしばしば日露両国の政治的思想的背景へと向けられる。勝つべき体制を整える上で、財力兵力すべての面であまりにも劣勢であった日本に対し、露西亜の弱点は、専制君主という、国内外の人民に対して苛酷な社会体制にあった事。辛くも闘い抜いたこの戦争を、国際的感覚の中で冷静に分析し、教訓としてその後の国家運営に活かし得なかった事を痛切に惜しむ司馬氏の心の声が聴こえるような第五巻だった。2020/09/05
誰かのプリン
15
戦争には謀略が必要である。日露戦争時は、陸軍明石大佐が躍動した。 その活躍は彼がいなければ、ロシア革命はなかっただろうと言わしめた。 乃木将軍は相変わらず不運で、 203高地を陥落させた後奉天会戦でもおとり部隊にされあやおくば全滅の危機に何度もさらされた。六巻へ。2018/04/27
geshi
15
奉天戦までの5巻目。戦いに必然の勝利は無いが、必然の敗北はあるという筆者の考えが色濃く見える。留め置かれたバルチック艦隊の疲弊と苛立つロジェストウィンスキー、恐怖にとりつかれ大軍を右往左往させたクロパトキン、たつた一人の指揮官の心一つでこれほどの大きな戦いの勝敗が変わる。戦争とはこんなにも奇妙なものだったのか。明石元次郎の諜報がスパイめいておらず、開けっ広げに反ロシアグループと繋がりを持つところを面白く読んだ。2014/01/24