内容説明
忘れ得ぬ人との邂逅、招かれざる者との再会など、何気ない日常における人生の機微を描いた珠玉の作品集。
著者等紹介
志水辰夫[シミズタツオ]
1936(昭和11)年、高知県生まれ。雑誌ライターなどを経て、81年に『飢えて狼』で小説家デビュー。85年『背いて故郷』で日本推理作家協会賞を受賞。91年『行きずりの街』で日本冒険小説協会大賞を受賞。2001年には『きのうの空』で柴田錬三郎賞を受賞した
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感想・レビュー
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hiace9000
24
「男坂」ーなのだ。上り坂もあれば下り坂もあったろう。7篇の短編に登場する男達は皆、人生の半ばをゆうに過ぎた下り坂の途上にいる。颯爽とか凜然とはまるで無縁。そこから先に続く道を静かに見つめる者、坂の下から後ろを振り返り仰ぎ見る者、それが決して他人に誇れるものではなかったにせよ、それぞれが多くを語らずとも語りうる道のりを歩んできたのだ。歳を重ねていくということとは、人知れぬ悲哀もまた重ねていくこと。その途上での思うに任せぬ不遇も受け入れ、呑み干すことで苦労皺や笑顔皺が年輪として男の顔に刻まれていく。2020/08/16
辺辺
11
7つの短編集。総タイトルの「男坂」は「寺社の参道などで、相対するふたつの坂の傾斜の急な方」だそうで、この中で書かれる男達は、まさにその区分け通りの「男」を生きてきた者ばかり。孤高のヒーローではない、寧ろ逆で彼らはただ世間からはぐれてしまっていた。黄昏の中をひっそりと急な「男坂」を下っていく、ある日の出来事を切り取って見せた短編である。哀しすぎる程の、侘びしすぎる程の孤独。振り払ってきたもの、諦めてしまったもの、後悔、無念、懺悔・・・涙見せない別れも言わない代わりに夕立が彼らを濡らす。切ない余韻を残す逸作。2020/06/06
ゆき
4
★★★☆☆:硬質な文章で、どこか影がある男たちの一瞬を切り取るように淡々と物語りは進み、突然に終わる。一瞬、何が起こったのかわからず呆然とするが、男たちが何を思ったのか、この先どうなっていくのだろう、ということに思いを馳せるとじわじわと寂しさや哀しさがこみ上げてくる。今までの読書では出会ったことのない不思議な余韻を残す短編集だった。2015/02/21
いつでも母さん
3
短篇集。この男達は弱くて強くて、哀しくて・・そんな余韻。それが切なかった。2014/08/06