内容説明
つねに白い手袋を身につけ、他人が愛したものを盗み、蒐集している《ぼく》が住むのは、古い邸宅を改造したマンション“望楼館”だ。人語を解さぬ“犬女”、外界をおそれテレビを見つづける老女、全身から汗と涙を流しつづける元教師、厳格きわまる“門番”…彼らの奇矯な住人たちの隠された過去とは?彼らの奇行の「理由」が明かされるとき、凍りついていた時間は流れ出し、閉じていた魂が息を吹き返す…。美しくも異形のイメージで綴られた、痛みと苦悩、癒しと再生の物語。圧倒的な物語の力と繊細なたくらみをそなえた驚異の新人のデビュー長篇。
著者等紹介
ケアリー,エドワード[ケアリー,エドワード][Carey,Edward]
1970年、イギリスはノーフォークに生まれる。ハル大学演劇科を卒業後、ロンドンのマダム・タッソー蝋人形館の警備員など多くの職につく。テレビ脚本や戯曲を書いたのち、2000年、7年を費やして執筆した『望楼館追想』で小説家デビュー、英米仏のいずれでも好評を博す。イラストレーター、彫塑家としての才能にも秀でる
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タカラ~ム
20
「堆塵館」でその魅力にはまった作家エドワード・ケアリーのデビュー作。実は刊行当時に購入したもののずっと積んだままだったのだが、「穢れの町」読了後のケアリー欠乏症を癒やすべく読んでみた。〈望楼館〉と呼ばれる古びたマンションを舞台にした一風変わった人間模様は、その後のケアリー作品の原点を感じさせる世界観でありながら、意外と王道で「愛」を描いている。デビュー作ならではの読みにくさもあるけれど、十分に面白かった。2017/08/02
おすし
19
主人公もほかの登場人物もチョイ役的に通り過ぎる人物に至るまでことごとくどこか歪んだところがあって完璧なイイヒトなんてぜんぜん出てこないどころかキモイやつばっか(笑) 嫌だけど自分含めそれでも家族だったり友人だったり恋人だったりするっていうのは現実的かこんなに濃い~くないけどな(笑) ♪ありもしないフツーだとかありもしないマトモだとかまぼろしのイメージのなかララララララまったくダセーよ♪ 愛すべきゴミなのかゴミみたいな物なのか者なのか…。ケアリー流ロックだぜエグ味が残るぅ…。2023/11/26
Porco
14
白昼夢でも見ていたかのような奇妙な読書だった。どこかで見慣れたものとも、始めて読むようにも思える特徴的な文体に終始惹かれてしまい予定よりハイペースに読み進めてしまった。登場人物が誰も彼も魅力的とは程遠い、まるでずっと陰日向にいるような内省的な人物なのに紡がれる話は妙に惹かれる。不思議だ。解説で言っていたように、読んだ人が妙に人に勧めたくなる本と評した気持ちがわかる。2023/12/27
mashumaro
12
廃墟に住む風変わりな住人たちのオカルトチックな物語…と思いながら読み始めましたが、テーマはもっと深い。心も体も鎧で覆いながら愛を求める葛藤。住人たちは皆、過去に囚われた亡霊のよう。冒頭で引用され、あとがきで全文を紹介しているマリン・ソレスクの詩がとても美しくて切ないです。細かい断章が物語をテンポよく進めていき、後半になるにつれどんどん引き込まれていく。見事な展開だと思いました。救いようのない物語のようだけど最後はハッピーエンドなのかな。読後感は良かったです。2019/03/15
トロピカ
11
読後しばらくは登場人物たちに思いを馳せてボーッとしてしまう。実際にこういうマンションがあるような気がして、いずれは自分もここの住人になってしまうような気に陥ってしまって…不気味で嫌悪感すら時には感じるのにどこか哀れで…そして認めたくないけど時には親近感も感じてしまう、そんな望楼館の住人たち。 この本の内容はずっと忘れないと思う。それにしてもマダム・タッソーの蝋人形館で勤務していた経験があったからこその発想なのかなあという描写があちこちに見られて興味深かったです。2023/09/18