内容説明
苦境に人の心を支えるもの。山本周五郎賞受賞作家が描く感動の時代小説三篇。
著者等紹介
乙川優三郎[オトカワユウザブロウ]
1953(昭和28)年、東京都生まれ。千葉県立国府台高校卒業後、国内外のホテルに勤務。96年、「薮燕」でオール読物新人賞。97年、「霧の橋」で時代小説大賞を受賞。01年、「5年の海」で山本周五郎賞を受賞する
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感想・レビュー
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kaizen@名古屋de朝活読書会
139
【直木賞】生きる、安穏河原、早梅記。時代物三本。社会の現実を描写。オール読物1999年、2000年、2001年。人が生きるための力、方向、状態。器用に生きられない男性は、女性についていくのがいいのか、自分の道を探すのがいいのか。生きるうえで大切なことは何かを考えるのによいかも。2014/03/17
chimako
86
率直な書名にたじろぎながら表題作「生きる」を読む。主君が死ぬとその後を追い腹を切る追腹。その禁令が出た。が、腹を切る者は後を絶たたない。娘婿の追腹を止めることが出来ず、息子に軽蔑されながら生きなければならない暗闇のような日々。その息子も切腹。心労を抱えたまま妻も死ぬ。悪名は消えることはなく気の塞ぐ日々ばかりが重なっていく。何とも救いようがないと思っていたところへ涙を誘う結末。 他の2編「安穏河原」「早梅記」も清く生きたいと願いつつも泥中を這いずり、心に澱を抱えながら生きた武士の一生。重い一冊だった。2018/04/24
みも
84
端正な文体で流麗且つ硬質で骨太な筆致。そこには虚飾もヒロイズムもなく、下級武士のリアルな生き様が描かれる。武士の誇りと貧困との狭間で心を砕く様が痛々しくも切ない。本著に触れ、かくも峻烈な武士の生き様に僕は己の甘えを叱咤する。そして武家に関わる女達の凛とした生き様に只々敬服するばかり。直木賞受賞の表題作を含む中編3篇。甲乙つけ難くそれぞれに感銘する要旨は異なるがいずれ劣らぬ秀作。第一級の作品集でした。描かれる男尊社会の理不尽さを苦々しく感じる女性もいるだろうと推察出来るが、それでも多くの方に読んで頂きたい。2024/02/03
ゆみねこ
72
乙川さんの直木賞受賞作「生きる」・「安穏河原」・「早梅記」の三編。タイトル作の「生きる」、主君の後を追い命を絶つ追腹の禁令を頑なに守った主人公の生き方が描かれる。どの作品も武士の一生をガツンと読ませてくれます。名作は何年経っても色褪せないですね。2018/06/18
R
66
タイトルの通り、生きること、生きていることに真摯な姿を描いた人間ドラマでした。時代小説で、武士の生きざまを描いたものであるのだが、悲壮感はなく、清々しい内容がすごくよかった。そうであってほしい、と願いたくなるようなことが、その通りになるという幸せな物語だと自分には読めたのだけども、真面目で真摯に生きている人間が、賞賛というほどではないが、正しいと肯定される、そんな当たり前がただただ、いいなぁと思える作品だった。読み終わって気持ちがいい。2021/12/09