内容説明
旧い友人に誘われるまま、心の闇を抱えた医師は山奥を出、陽光あふれる海の町を訪ねる。きらめく波頭、まぶしい青、潮の香―だが、そこにも…。心あらわれる珠玉の中篇小説。
著者等紹介
南木佳士[ナギケイシ]
昭和26(1951)年、群馬県に生れる。秋田大学医学部卒業。現在、長野県南佐久郡臼田町に住み、佐久総合病院に勤務、内科医長。56年、難民医療日本チームに加わり、タイ・カンボジア国境に赴く。同地で「破水」の第53回文学界新人賞受賞を知る。平成元年、「ダイヤモンドダスト」で第100回芥川賞受賞。着実な創作活動を続けている。他の著作に、短篇集「冬物語」「家族」、長篇小説「阿弥陀堂だより」「医学生」、エッセイ集「臆病な医者」「ふつうの医者たち」などがある
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感想・レビュー
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kyoko
9
うつ病の医師の苦悩の様子が切々と伝わって来た。これは著者の自伝? 重苦しい内容だけれど何か引きこまれる魅力ある文章。2014/11/24
パカゲニー
5
南木佳士さんの2001年作品。山の病院で終末患者などと接しながら、自分が壊れてしまえしまう不安を抱えながら学生時代の友人に誘われ彼の住む海の近くの彼の病院に五日間出かける。 そこで会う友人やその娘との交流。自らの病い、友人の家庭事情などが淡々と語られ南木さんらしい作品です。佳品です。 2022/09/27
こくう
3
地方の医者である主人公はある日精神を病んでしまう。心療内科の治療を受け、負担の少ない部署へ現場復帰する。自分では大丈夫だと思っていても積み重ねられた精神的負荷はある時全体重をかけて覆いかぶさってくる。大学時代の同級生松山からの連絡をきっかけに海の近くにある松山の家を休養に訪れる。松山の娘がはきはきして気持ちがいいが、両親との関係上なってしまったとの告白はしんみりとしてしまう。主人公は快方には向かっていないがそれでも生きていく。2017/10/22
algon
2
著者が病に苦しんでいるさなかに書かれた作品と思う。どれほどの苦しみが自己をさいなんでいたか推測するしかないが自分に向けられる言葉の厳しさから苦しみの経過を少しは察することはできる。体力も奪われやっとたどり着いた海には現状の著者の状態の対極にいるような少女が待っていた・・・。海沿いに住む友人の悩みを傍観しながら山から来た著者はまた山に戻っていく。まったくの海だ・・と。何も解決もしないのだがミューズとしての少女の活力と端正な文で読ませた。ただ著者を少しは理解していないとちょっとキツイ本なのかもしれない。2017/01/31
ジュースの素
0
うつ病の実態を少し垣間見たような気がした。 自伝と思われる文章で 作者の病の ほどなく後に 書かれた作品。 これで医者がやって行けるのか こちらが 不安になるほどだ。 助けを求めて 旧知の友人の 診療所、それも海岸端の明るい場所にあって 療養にいいかもと 考えて世話になったが、その友人はもっと苦しい環境にいた。 ヒトが抱える細かなヒダのような軋みやねじれ、なぜこうも 重圧は無くならないのか かなり重い内容だった。2013/03/02