出版社内容情報
電話の主は「マグロ」か「スーパージェッター」か? 時間も空間もとめどなく歪み崩れていく「海芝浦」への旅はこうして始まった──
内容説明
「海芝浦」とはどこか、噴出する妄想の旅がはじまる。第111回芥川賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Koichiro Minematsu
45
ほとんどが一人称での話。仮眠空想の中で昭和と平成を、東京と地方を、行ったり来たりしている。 これも私の記憶だよね。2024/10/05
かふ
20
『タイムスリップ・コンビナート』は東芝工場につながる鶴見線は東京の果て(鶴見の湾岸)の「海芝浦」という東芝工場と繋がている。去年の今頃「鶴見駅の挑戦状」という鉄道オタが喜びそうな企画があったのだが、それがまったく『タイムスリップ・コンビナート』の場所と重なっていた。マグロから呼び出されるというのはゴーゴリ『鼻』のような滑稽譚を連想させた。最後の『シビレル夢ノ水』はカフカ的世界をよりおぞましくした小説だった。『タイムスリップ・コンビナート』は喪失した時間の物語でもあり味わい深い。稲垣足穂の近未来小説の影響も2023/12/24
踊る猫
10
スジだけを要約すると夢の記録を描いているような(まさに主人公が夢現の状態で過ごしている日々も描写される)作品集だ。だが、その「夢」を笙野頼子氏は恐るべく冷徹な視点で描いている。文章に無駄や余剰がないというか、硬質/ソリッドな印象を受けるのである。それでいて初期の作品のあの異様な読みにくさがなく、こちらを自在に引きずり込んでいくテクニックを自家薬籠中の物としていることが伺える。藤枝静男の持つ狂気のヴィジョンを笙野氏なりに変奏した、しかし猿真似/エピゴーネンでは決してない、そんな印象。吉田知子氏に通じるものも2016/04/14
大粒まろん
6
なるほど、、、(笑)まるで、螺旋階段を登ってる様な、イヤ、降ってるのかな?イヤ、グルグル回ってるだかわからなくなる、軽妙なんだか、なんなんだか、とぼけた味わいです。ふふふ。そりゃ純文学論争も起こりますよね。四日市のコンビナートは確かに幻想的。マグロマグロマグロぐるぐる。。。2023/03/31
u
6
「タイムスリップ・コンビナート」「下落合の向こう」「シビレル夢ノ水」を収録。いずれも妄執と現実が輪郭を溶かして混ざり合う作風で、芥川賞受賞のぶっ飛んだ表題作ももちろんいいのだけど、私的には他二篇、とくに「下落合の向こう」のバランスがよかった。最初から妄執のほうが現実を食い気味で、テクストが書かれることによってどんどんそれが現実を圧倒していく……のだけど、最後にまた絶妙な拮抗に収束される。作中にもでてくるけど、室内プールのようなふわふわ感、非現実感だった。癖になりそう。/海芝浦駅に行きたくなった。2017/05/28