出版社内容情報
押伏村には、六十歳を越えると蕨野へ棄てられる掟がある。今年は総勢九人、悲惨で滑稽な蕨野生活が始まった。芥川賞作家の野心作
内容説明
蕨野―。そこは六十歳を越えるとだれもが赴くところ。あの世とこの世の間に宙吊りにされたジジババたちの、悲惨で滑稽、なおかつ高貴な集団生活。死してなお魂の生き永らえる道はあるか?平成日本によみがえる衝撃の棄老伝説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そうたそ
31
★★★☆☆ 「姥捨て山」伝説をモチーフとした作品はいくつか存在するが、本作もその一つ。ただし、設定自体も村田さんによってかなりリアレンジされており、唯一無二の作品に仕上がっている。冒頭からいきなり文語調にどこかの方言を合わせたような文章で、かつ対話形式の内容に結構戸惑ってしまうのだが、リズムのいい文体に不思議と読みにくさは感じない。原典に見られる退廃的で冷めているような感じはなく、本書には、「お姑」と「ヌイ」との心の交流に描かれるような、溢れるほどの愛情が感じられた。高齢化社会への問題提起ともとれる作品。2015/07/01
慧の本箱
17
村田氏の『ゆうじょこう』に引き続いて彼女の著作の本書。このコロナ禍の中で手にするのにちょっと躊躇したけど、豈図らんやでした。勿論いわゆる姥捨てなわけですが、村田氏の手にかかるとこの題材も奥行きのある生き死にが見えてくる。ワラビの里に行く姑レンと若き嫁ヌイの相聞歌が又何とも言えない趣を添えて愛情に満ち溢れたものになっている。2021/01/12
クリママ
16
60歳になると蕨野へ行く。寒村の棄老。姑と若い嫁の対話で話が進んでいくが、はじめは方言を読み進められるのか心配だった。しかし慣れてくると、その方言がまるで相聞歌のようで、お互いへの深い愛情が伝わってくる。あまりにも厳しい生活、その中で生きるということ、死を受け入れるということ、そして、女性の幸、不幸について考える。読み終わってすぐ再読したのは、この本が初めて。私にとって、最も大切な1冊となった。
FK
7
深代川はおれだちワラビには約定の川にて、丸木橋は生死の境を敷切る橋なりか。朝は世に生まれる心地して里へくだり、夕にワラビ野むいて帰りくるときは、命果てて冥府へ参る心地せるなり。/このごとくして、朝に生を享け夕に死を授かるよな、奇妙なワラビの暮し始まりけるよ。(P.41) つまり、『楢山節考』のようにいきなり完全に家族たちと生き別れをするのではなく、徐々にそれを受け入れられるように、いわば時間稼ぎをしながら最終的な別れをしていくのだ。涙なくして読めない。しかしその涙した後に、私たちは考えなければならない。2016/01/30
きゃる
3
始めは独特の文体が読みにくかったが、それがいつしか心地良く、囲炉裏端で昔話を聞く面持ちになっていく。姑と若い嫁が交互に語りかけ、物語の終わりは、幸せであれと両手を合わせたくなる。怖い、ほのぼのとした民話のようでした。