出版社内容情報
群馬県渋川町に生まれた和夫は、軽度の難聴であることを隠し、悩みながら暮らしていた。端正な筆致で半生を綴る連作私小説
なぜ、おれの耳だけ聞こえないのだろう――
群馬県渋川町に生まれた和夫は、軽度の難聴であることを隠し、悩みながら暮らしていた。戦後、中学を中退して東京で働き、復学して大学を卒業し、老後に至るまでの半生を綴る、連作私小説。
〈目次〉
雲のこと/赤城山/うっせえやあ/天照キリスト/蝉
「和夫は、小学校から高等学校まで、群馬県の渋川町という小さな町で育った。榛名山麓の丘陵地にあるわずか十八坪の小さな借家だったけれども、台所の窓から、赤城山が目の前に見えた。太陽は赤城山の向こうから昇り、西側の榛名山の背後に落ちた。春の夕焼けが赤城山の山肌をピンク色に染めたときが、山に妖しい色気を与えて一番きれいだった。
消えていく夕暮れの太陽が榛名の水沢岳の頂上にかかり、光が朱色に燦爛となる。それも素晴らしかった。その光の美しさは、いまも和夫の目に焼き付いたまま離れない。」(「蝉」より)
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