出版社内容情報
おのれを「正常」だと信じ続ける強制収容所の司令官、司令官の妻と不倫する将校、死体処理班として生き延びるユダヤ人。おぞましい殺戮を前に露わになる人間の本質を、英国を代表する作家が皮肉とともに描いた傑作。2024年アカデミー賞国際長編映画賞受賞原作
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
105
「最初は白く、そして灰色に、やがて茶色になった雪」。そこはもう白い雪が降らない領域。汚された世界は白さを取り戻せない。本作は大戦時のユダヤ人収容所に関わる三人、それも管理側の者の内面を描いた小説。あんな凄絶な事をする人間の心理とは。ただそれは特別なものではなく、人が容易に陥る姿が滑稽でむしろ恐ろしい。利己的な論理、自制ない享楽、自己への言い訳。三人は非倫理的な自分を映す鏡を見ようとしない者、鏡の中の自分に気付く者、見ることを避けられない者。白い雪を残すために鏡に映る自分を知る心持ちの大切さを改めて感じた。2024/07/11
R
89
重い。ホロコースト、その周辺、その時、その場にいたであろう人たちの物語。ありがちとまではいわないが、戦時中の日常といえばよいのか、ある種低俗な人間模様が展開されるのだが、その背後というか、ずっとホロコーストがあるのだけど、それを見て見ぬふりというか、横たわっているだけで、関わっているけども意識しない、そういう不気味さの中で人間的な営みがある、それを描くだけなんだが、それが重く、理解を迫ってくるような小説だった。面白いとは軽々にすぎるけど、非常に興味深かった。2024/11/04
キムチ
81
2023年映画化され、今年アカデミー賞では残念ながら国際長編映画賞ゲット。予告編に底しれぬ戦慄を覚え、観るより本を読みたくて挑戦。がっくりの敗残!読みにくい、頭に染み込んていかない…将校、司令官、ユダヤ人コマンド三様の語りで綴られていく。贅沢な日々の生活が繰り広げられる壁一つ向こうは強制収容所。映画と異なり音が無いことが読書では想像力が過度に求められる。アーリア人男性のむき出し性欲、同レベルの女の諸々の欲望がビンビン。かつて観たナチス支配下の映画でも性的退廃ぶりは知ってはいたが…題が表すのは無関心→人間性2024/11/12
Vakira
80
5月に映画「関心領域」を見た。ホロコースト大量殺人処理が行われたアウシュビッツ収容所の隣に住む司令官の家族の話。殺人の無関心とユダヤ人から搾取した高級品は自分の物。坦々と無関心の個人的欲望の怖さの物語だった。いかにも幸せな司令官の奥さんの暮らしぶり。殺人シーンの映像表現はありませんが、かなり印象に残りました。原作があることを知り、これは読んでみなければ、と図書館にリクエスト。2か月待ちでやっと読めました。して読む。んん!強制収容所の話は変わりませんが、映画とは別物。主人公は収容所司令官ではありません。2024/07/31
藤月はな(灯れ松明の火)
73
狂気がごく普通の人々にも浸透していくのには「私は正しい事をしているんだ」という安心感と一抹の恐怖があれば事足りる。この本が共感不能かと言うとそうでもないのが恐ろしい。私が一番、動揺したのは「普通」を尊ぶが故に仕事の重圧を薬物と酒、そして女性への性的支配によって克服しようとするドルの章だ。嘗て「普通」じゃないと気づかれ、捨てられるんじゃないかという恐怖から独善の基準を他者に押し付けていた頃の自分との思想に似ていたからだ。『火葬人』の語り部もドルみたいに「普通」に固執するが余りにナチスに傾向していったっけ…。2024/10/13