出版社内容情報
とある村で、〈魔女〉の死体が見つかる。彼女は村の女たちに薬草を処方し、堕胎もしてやっていた。彼女を殺したのは一体誰か--。暴力と貧困がはびこる現代メキシコの田舎を舞台に狂気と悲哀を描き、名だたる文学賞候補となった西語圏文壇新星による傑作長篇
内容説明
“魔女”が死んだ。都市から離れた村で、外界と隔絶していた魔女。鉄格子のある家にこもり、誰も本当の名を知らない。村人から恐れられつつ、秘かに頼られてもいた。困窮する女たちの悩みを聞き、様々な薬をあたえ、堕胎の手助けをしていたのだ。莫大な遺産があるという噂もあった。魔女は殺された。暴力が吹き荒れるこの村の誰かに。魔女の家の前にいた男たちを目撃したジェセニア、その徒弟で麻薬常習者のルイスミとその悪友ブランド、売春宿を営むチャベラとその夫ムンラ、継父の性虐待から逃れてきた少女ノルマ…。村の人びとの言葉が導く、あまりに悲痛な真実とは―。荒々しくも詩的な言葉で暴力の根源に迫り、世界の文学界に強烈な衝撃をあたえたメキシコの新鋭の傑作。ブッカー国際賞最終候補、全米図書賞翻訳文学部門候補、文学ジャーナリスト賞(メキシコ)受賞、アンナ・ゼーガース賞(ドイツ)受賞、国際文学賞(ドイツ)受賞。
著者等紹介
宇野和美[ウノカズミ]
東京外国語大学卒業、スペイン語圏文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
100
長篇小説。メキシコのある村での話だ。道化芝居?、いやそれは現実。夏にハリケーンがやって来る地で今でも。それは魔女の話から始まる。お伽話のように。でも、魔女の死体が精糖工場の用水路に浮いているのが発見されることで「現実」が物語を浸食し始める。女も男も、いや少女も少年もしゃべりが止まらない。いや無口なのだ。それは何を言っても無駄だという虚無が支配するから。だが心のしゃべりが止まらない。野卑で猥雑で剥き出しな言葉が連なり読み手の身体に流れ込んでくる。無口な生の叫びとして。あられもない現実がお伽話を喰らい尽くす。2024/01/13
ヘラジカ
47
貧困やマチズモ、それによって生まれる暴力の連鎖、更には前時代的な抑圧と満たされない欲求などが渦巻き、一つの凄惨な事件として結実される様を描いた物凄まじき傑作。猥雑なるメキシコの田舎町を舞台にした群像劇だが、単なる「描く」という生易しいものに留まらない。”悪”の根源、どこから生れ出づるか、その正体まで追及しているような威圧感を覚えた。それぞれの声に込められたエネルギーは読み手の精神を削るほどで、読んでいて中上健次を思い出したのは久しぶりである。年の瀬にやってきた怪物的作品。2023/12/20
ハルト
13
読了:◎ 凄まじい血腥さと閉塞感。汚泥に足を取られたような、逃げ場のない現実。悲惨と一言で表せないその環境の劣悪さは、人間を押し潰してしまう。その結果、魔女が殺された。そこに至るまでの道筋を、五人それぞれの視点で容赦のない、しかし押し流すような筆致で暴いていく。こんな環境にいたら誰だって狂気をおぶってしまうだろう。暴力とセックスが支配する町で逃げ出したくても逃げ出せないゆえの苦痛や苦悩。地獄絵図のようで、読んでいるこちらにまで、死と汚泥の悪臭が伝わってくる。五感に訴えかけてくる文章だと思った。2024/03/02
8123
12
5人からなる多視点モノ。多次元認知はふつう多様なあり方を示して世界を広げる効果があるものだけど、本書ではひたすら閉塞感を増すばかり。登場人物の境遇は例外なく悲惨の一語で、何をどうしようと地獄への一本道しか見当たらず。現世は惨苦のうちに死体となり地に返る結末しか用意されていない。墓守の爺さんが言う通り、死後にわずかな光が射すことに期待するしかないのが、更に絶望感を増す。2024/04/03
葉子
11
男たちからは恐れられ、女たちからは頼られている魔女が殺された。4人の人物が順番に語っていく中で真実が見えてくる。まず、魔女について明らかになったときに衝撃を受けた。そして、彼らの住んでいる世界のあまりの熾烈さにも。暴力とドラッグに満ちた世界では平然と性が売られていく。女性も、男性も。現実を忘れるために酒を飲み、薬物をやり、そんな彼らに抜け出すすべはあるのだろうか?誰もが環境の被害者であり悲しくおもえた。そしてこんなに激しい文章を書く作者が女性ということにもまた驚いた。2024/03/14