出版社内容情報
ダイアン・クック[クック ダイアン]
著・文・その他
上野 元美[ウエノ モトミ]
翻訳
内容説明
環境破壊が進み、人類の居住地は都市のみとなった近未来。ビーアトリスの5歳になる娘アグネスは、大気汚染で徐々に衰弱していた。アグネスを守るための選択肢はただひとつ、空気の清浄なウィルダネス州で行われる実験―野生動物の保護区として残された原生地で、人類と自然の共存を模索する研究―に参加することだった。広大な土地に取り残された全20名の参加者は、予測不能で危険な土地でのサバイバルを始める。しかしアグネスが自然での生活に馴染むにつれ、母娘の関係には予期せぬ変化がおとずれる―。
著者等紹介
クック,ダイアン[クック,ダイアン] [Cook,Diane]
アメリカの作家。大学卒業後、メイン州ポートランドにあるソルト実録研究院で学んだのち、ラジオ番組This American Lifeのプロデューサーを務める。その後、コロンビア大学で美術学修士を取得し、2015年に短篇集Man V.Natureで作家としてデビュー。PEN/ヘミングウェイ賞をはじめとする数々の文学賞の候補となる。2020年にアメリカで刊行された本書は、初の長篇小説でありながら、その年のブッカー賞の最終候補になるなど注目を集めた。ブルックリン在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヘラジカ
53
黙示文学に新たなる傑作が加わった。ダイナミックな原始生活と錯綜する人間模様、その裏で圧倒的な存在感を放つ荒廃しきった都市と文明……。デビュー作の短篇集に衝撃を受けたのも束の間、著者の「人類対自然」のテーマは拡大し、母娘の関係性を巡る深遠な叙述をも内包して、より強力で大きな物語として再び目の前に現れた。しかし、この作家の豊かな発想とストーリーテリングは驚くべきものだ。珠玉というに相応しい作品集に続いて、ここまで印象深い大作を書き上げるとは。邦訳が短期間で出版されたのが幸い。要注目の作家として刻み込まれた。2022/09/06
Ai
7
母と娘の物語。SF的な要素は舞台設定のみで、両者の愛憎混じった複雑なドラマが読みどころ。大気汚染で住めなくなった都市を捨て、自然が残るウィルダネスへ。最初は、ナチュラリストの自然賛歌の物語かと思ったが、そうではなかった。過酷な自然の中で簡単に人が死に、人間社会は獣の群れと化す。生々しい群れのカーストの中で、母ビーと娘アグネスは常に選択を迫られる。お互いがお互いを必要としながらも、別離が迫られる状況は、獣の親子の独り立ちを観ているような切なさと力強さがあった。2024/12/13
ボウフラ
3
大気汚染が進んだ未来。病気の娘の為に唯一自然が残っているウィルダネス州の環境実験に家族で参加する。20人による集団生活の中での諍いは想像通りのところが多いが、母と娘の確執と、自然の中での育った娘の性格や考え方は独自の物が感じられた。81点2024/03/22
Tomio
2
そうまでして都市に戻りたくないって、都市、どうなっちゃってるの!?と知りたくてたまらなかった。 野性味あふれる暮らし描写が続くが、大事件が起こるわけでもなく、物語の波風は感じず、森からキャンプを眺めているような気分になった。 研究はなんのため?2023/09/15
中海
2
都市の環境破壊が進んだため義父、母娘で山での実験生活みたいのに参加する(数年単位)。家というプライバシー空間のない状態での集団生活。よっぽど「自然大好き」「訳あり」でない限り、精神肉体共に荒んでゆく。やっぱり余裕ないと、きれいごとさえ言えない。結構この作品は多角的で色んな角度から読める作品で、人それぞれひっかかる部分が違うと思う。自分的には、人の死を商売にしている葬儀屋という組織にこの本を読ませたい。人間だって動物のように死にたい人もいると思う2023/03/20