出版社内容情報
1980年代、不況下の英国グラスゴー。"男らしさ"に馴染めない少年シャギーは、夫に捨てられ酒に溺れていく美しき母、アグネスを救おうと必死にもがく。誰も頼りにならないシャギーには、母の存在が全てなのだから。居場所のない親子の愛を痛切に描く自伝的巨篇。
内容説明
1980年代、英国グラスゴー。“男らしさ”を求める時代に馴染めない少年シャギーにとって、自分を認めてくれる母アグネスの存在は彼の全てだった。アグネスは、エリザベス・テイラー似の美女。誇り高く、いつも周囲を魅了していた。貧しさが国全体を覆っていくなか、彼女は家族をまとめようと必死だった。しかし、浮気性の夫がアグネスを捨ててから、彼女は酒に溺れていき、唯一の収入である給付金さえも酒代に費やしてしまう。共に住む姉兄は、母を見限って家を離れていくが、まだ幼いシャギーはひとり必死にアグネスに寄り添い―。けっして生きる誇りを忘れなかった母子の絆を描く、デビュー作にして、英米の文学界を席巻したブッカー賞受賞作。
著者等紹介
黒原敏行[クロハラトシユキ]
1957年生、東京大学法学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
203
処女作にてブッカー賞受賞作ということで、読みました。イギリスの貧困層、アルコール依存症の母とヤングケアラーの息子との自伝的私小説、家族の愛の物語です。600頁超ですが一気読み、大変読み応えがありました。 https://www.hayakawabooks.com/n/nafa52dd37e402022/06/09
キムチ
80
この分量、して陰惨な内容の空気と共感持てぬ展開 人物群でなかなか頁が進まなかった。1980年代の炭鉱エリア グラスゴーの架空の町。薬、アルコール、暴力とセックス。標題のシャギーの後ろに存するアグネスがヒロインという感が。エリザベス・テイラー似というから相当な美形。環境も手伝い、歩んだ途は転落、荒んだそれ。当時の男どもの典型の様なジャグ・次のユージンに弄ばれただけ・・あとはぼろきれの様に。家を飛び出せないシャギーはいわばヤングケアラー。この語、古今東西 人類と共にあった。浮かばれることの稀有な痛みを伴う。2023/01/02
ヘラジカ
73
貧困、暴力、依存症、そしてあらゆる”欠如”に取り巻かれた過酷な世界で、少年は母親へひたむきな愛情を注ぎ続ける。それが報われない不幸な結末を辿ることを、幼心に気づいていたとしても。読み通すのがとても辛い作品だったが、この時代・この国の「男らしさ」なんてものを遥かに凌駕するシャギーの強さと純真さに胸を打たれた。少年の行く末に幸多きことを願わずにはいられない。作者の経歴は物語と切り離さないで想像したい思う。色彩が広がるようなラストに、絶望のなかを生き続けることの気高さ、美しさを説かれているように感じた。傑作。2022/04/24
藤月はな(灯れ松明の火)
58
何度も図書館から借りては読み切れずに返しを繰り返した唯一の本。「誰かを愛したら愛しただけその誰かはこっちを馬鹿にするんだよ」の言葉は家庭で同じような目に遭ったからこそ、愛を担保にされる事の不信を持った私にとって心が切り刻まれるようだった。最ももう、血は流れないけど。「地獄は善意の路で舗装されている」を体現するユージーンの見栄は浅ましいとしか言えない。お陰で逆戻りした時の無惨さよ。人生は生地獄でしかないのか。それでもリアンがいてくれてよかった。ラストのダンスは解き放たれたかのように華麗で自由だっただろう。2023/04/21
J D
54
アルコール依存症の母と性的倒錯者の息子の共依存の物語。悲しい気持ちになった。かなりの長編なんだが、これだけのページが必要なのかなと思った。アルコール依存が、リアルに描かれていてなんだかやるせなかった。シャギー・ベインは、これから人知れず母の思い出を胸にひっそりと暮らして行くんだろうな。2022/06/27