出版社内容情報
果樹園の蜂の巣で、最下層の蜂として生を受けたフローラ七一七。女王を崇めて労働を称える教理により厳重に管理される蜂社会で、フローラはほかの蜂とは異なっていた。育児室の世話をし、花蜜を集める彼女は、女王にのみ許される神聖な母性を手にしたのだ……
内容説明
果樹園の蜂の巣で、最下層の蜂として生を享けたフローラ七一七。女王を崇めて労働を称える教理により厳重に管理される蜂社会で、フローラはほかの蜂とは異なっていた。育児室の世話をし、花蜜を集めることになった彼女は、巣の存続の危機が迫るなか、女王にのみ許される神聖な母性を手にしたのだ…。蜜蜂の実際の生態をもとにして蜂の巣の全体主義的社会を描き、『侍女の物語』になぞらえて評された驚くべき物語。
著者等紹介
ポール,ラリーン[ポール,ラリーン] [Paull,Laline]
作家、脚本家。インドからの移民の両親のもとロンドンに生まれ、オックスフォード大学で学んだ経歴をもつ。デビュー作の『蜂の物語』はベイリーズ女性小説賞にノミネートされ、16カ国語に翻訳された。英国在住で、写真家の夫や子供たちと暮らしている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
コットン
82
カフカさんのワクワクするおすすめ本。偵察した情報をダンスし、他の仲間がダンスすることで情報を定着するその方法は、体を使うことで記憶を定着するので人間の勉強方法とも通じるところがより身近な物語として実感できるというように蜂社会のリアルな現実感が持ち味となっている面白い本。2022/10/24
ヘラジカ
73
本を開くまで題名はメタファーかと思い込んでいたが、なんと文字通りの”蜂の物語”である。大人の『バグズ・ライフ』と言ったら良いだろうか。寓話性と現実感のバランスから、個人的には手塚治虫の『鳥人大系』を思い出した。昆虫特有の感覚描写のなかで揺れ動く擬人化された感情表現は、とても奇妙で新鮮な読書体験をもたらす。発想の奇抜さだけではなく、フローラが階級制度から逸脱、のし上がっていく様には宮廷小説のような面白さもある。宗教や全体主義によって生み出されるディストピア、それを昆虫社会で描くのはありそうでなかったかも。2021/06/20
こなな
65
珠玉の小説ではないだろうか。この表紙もクラシックさを感じて引き込まれる。果樹園の蜂の巣の中の社会で、最下層の汚物処理係の衛生蜂として生を享けたフローラ七一七。“受け入れ、したがい、仕えよ”という言葉が何度も出てくる。逆らうことはできない。女王を崇拝し労働を生きる全てとして厳重に管理された蜂社会。フローラは女王にのみ許される聖なる母性を手にするのだ。言葉を教育されない階級のフローラなのだがフローラだけが言葉をも話せる。蜂の視点で綴られているディストピア文学。蜂の生態に則って階級ごとの蜂や虫たちが魅力的だ。2021/09/15
mii22.
54
蜂の視点で描かれた「侍女の物語」やディストピア小説と言った予備知識や読み始めの気味の悪さなど読み終わってみれば微塵も感じさせないくらい瑞々しく、力強く、未来への希望に繋がる物語で奇妙な蜜蜂の世界にすっかり魅了された。これを読めば花から花へと花蜜を集める蜜蜂たちが愛おしくなる。過酷な労働、容赦ない粛清、厳しい管理のもと「受け入れ、したがい、仕えよ…」怪しい言葉で洗脳され秩序と階級が重んじられる蜜蜂の社会で最下層の衛生蜂として生まれながらも持ち前の勇気と賢さで力強く生き抜くフローラ717の姿に胸が熱くなった。2022/11/20
星落秋風五丈原
49
蜂の世界にも階級がある。もちろんトップは女王蜂だ。働きバチは全て雌で、蜂の社会では雄蜂は巣の中では働き蜂に餌をもらう以外特に何もしない。ただ女王蜂との交尾が終わると雄蜂は交尾の為の射精後に速やかに死亡し、新女王蜂はこの死体をぶら下げてしばらく飛翔する。やがて交尾器がちぎれて雄蜂の死体は落下する。交尾に成功しなかった雄蜂は生き永らえるかと思いきや、繁殖期が終わると働きバチに巣を追い出される粗大ごみと化して死に絶える。童貞脱出の一瞬後は死。これぞ至福のエクスタシー。雄蜂は一瞬に命を賭けて消えていく花火。2021/07/13