出版社内容情報
『侍女の物語』から十数年。ギレアデの体制には綻びが見えはじめていた。政治を操る立場にまでのぼり詰めたリディア小母、司令官の家で育ったアグネス、カナダの娘デイジーの3人は、国の激動を前に何を語るのか。カナダの巨匠による名作の、35年越しの続篇。
内容説明
「道具」であることを、やめた女たちは―『侍女の物語』続篇。ブッカー賞受賞作。
著者等紹介
アトウッド,マーガレット[アトウッド,マーガレット] [Atwood,Margaret]
50以上の小説、詩、批評を発表している、カナダを代表する作家。1985年に発表した『侍女の物語』(早川書房刊)はドナルド・トランプ大統領の誕生をきっかけに再びベストセラー入りし、“侍女”は女性への抑圧に対抗するシンボルとなった。同作は2017年にドラマ化し、エミー賞を8部門で受賞した。ブッカー賞、アーサー・C・クラーク賞、フランツ・カフカ賞など数々の賞を受賞している。2019年にはその文学活動によってコンパニオンズ・オブ・オナー勲章を受けている。また、イラストレーター、劇作家、脚本家、操り人形師としても活躍。カナダ・トロント在住
鴻巣友季子[コウノスユキコ]
英米文学翻訳家・文芸評論家。訳書・著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゃちゃ
112
「Tomorrow is another day」物語終盤のリディア小母のつぶやき。危険な道を選び、自らは反逆者として死への道を歩むか。安全な道を選び、自らの支配力をさらに強固にして栄えある道を歩むか。ギレアデ共和国を操る権力者たる彼女の、心の揺らぎが胸に迫る場面だ。「読者よ」と繰り返される呼びかけは、同時に私たちにも選択を迫る。女性の人権を剥奪し歪んだ管理監視による恐怖政治が敷かれる“神政国家”。その欺瞞満ちた社会を崩壊に導く三人の女たちの毅然とした選択。それはまさに、暗闇の光として私たちをも導くのだ。2021/01/24
buchipanda3
110
「侍女の物語」の続編。あの世界、再び。前作のじっくりと世界観を模索するように読み進める文学的な味わいとはまた違った面白さを堪能した。エンタメ性が濃くなり、物語の行方を求めて先へ先へと頁が捲れる。今作は3人の女性の視点で語られ、前作では不透明だった部分が見えてきた。歪んだ価値観が形成される社会の仕組み。その中で彼女たちには言い様のない苦しみがもたらされてしまう。立場の違う彼女たちが果たそうとする想いは何か。後書きにもあるがこの結末は時代がそれを求めたのだと思う。そしてこれはまさにシスターフッドな物語だった。2020/10/07
キムチ
106
「侍女の物語」に続く2作目のマーガレット。前作はディストピアものでも俯瞰的な視線で歪んだ管理社会の戦慄を読み手に認識を促した。著されたのは遡ること33年前、トランプ政権の再登場で新たに、全体主義、カリスマ的指導者への脅威で湧き上がってきた声にこたえるかのように浮上したのは、アンサーメッセともいうべき「誓願」か?合衆国の分断、解体、そして何処へ向かうのか・・各人の胸に問いかけを促した様な感覚が。シスターフッドともいうべき小母社会・・そこには庇護的愛情、があれば妬み、嫉妬、姉妹愛etc片や「妻」という立ち位置2025/01/04
パトラッシュ
94
重苦しい悲劇的展開に終始した『侍女の物語』に比べ、続編の本書はほとんどエンタメ。ギレアデへの復讐に燃える三人の女によるスパイものだが、正直失敗ではないか。ル・カレやグリーンのような、ひりひりするスパイの孤独や恐怖、脱出の苦闘や追跡ドラマは感じられない。リディア小母が拷問の果てにギレアデに屈するまではもっと詳細に書き込むべきだし、素人のニコールが簡単に潜入任務を果たす経緯はラノベだ。ジャド司令官らギレアデ側の面々も悪というよりピエロに近い。アトウッドは確かに優れた作家だが、スパイ小説を書く才能はないのでは。2020/11/25
藤月はな(灯れ松明の火)
92
陰鬱とさせられた『侍女の物語』から15年後の世界。この本を読んで、これらは耐え忍ぶだけじゃない女性たちの物語だったのだとやっと気づくことになる。武力と安寧を引き換えにした服従による飴と鞭によって成り立つも内側からジュクジュクと腐り落ちていくギレデア。建国当時の共犯意識で結び付く小母達も互いに足を引っ張り合う様は人間の愚かさを見せつけてくる。そしてジェイドとアグネスが邂逅してから互いの文化のギャップ(ジェイドがギレデアの料理の粗末さに文句を言ったり、アグネスがギレデアの制服以外の服に心許なさを感じるなど)2021/03/28