出版社内容情報
英国秘密情報部(MI6)の現役部員ナットは、中年をすぎて引退が囁かれはじめ、ロシア関連のお荷物部署に左遷される。だが、そこで待ち受けていたのは面目躍如たる大きな案件だった。進退をかけた勝負を挑むナットの情を絡めとるような思いがけない罠とは?
内容説明
イギリス秘密情報部(SIS)のベテラン情報部員ナットは、ロシア関連の作戦遂行で成果をあげてきたが、引退の時期が迫っていた。折しもイギリス国内はEU離脱で混乱し、ロシア情報部の脅威も増していた。彼は対ロシア活動を行なう部署の再建を打診され、やむなく承諾する。そこは、スパイの吹きだまりのようなところだった。ナットは、新興財閥(オリガルヒ)の怪しい資金の流れを探る作戦を進めるかたわら、趣味のバドミントンで、一人の若者と親しくなっていく。ほどなく、あるロシア人亡命者から緊急の連絡が入った。その人物の情報によると、ロシアの大物スパイがイギリスで活動を始めるようだ。やがて情報部は大がかりな作戦を決行する。そして、ナットは重大な決断を下すことに……。ブレグジットに揺れるイギリスを舞台に、練達のスパイの信念と誇りを描く傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
124
遺作となってしまった。ル・カレの想いが、祖国のために誇りを持って多大な犠牲を払ったエージェント達が引退後はそれに見合った対価を得て穏やかに暮らしていいはずだという願いが、この中に込められているね。たくさんある伏線がどうなっていくのかを見守りながら読めるのが、ル・カレ作品を読む醍醐味。ここにもそれはあるが、すでに敵はトランプでもロシアでもないのではと作者に問いたくなる2020年の年末。ル・カレの気持ちは、スマイリー達は、いまも、フィールドを駆け巡っているのだろう…、原題のタイトルのように。2020/12/26
ヘラジカ
70
巨匠ジョン・ル・カレによる最新小説。88歳という年齢を考えると、ここまで時代に即したスパイ小説を生み出したのは驚くべきことだ。当然のことながら冷戦時代や外国の地を舞台にした全盛期の作品と比べたら熱含量に劣るものの、その分落ち着いた燻し銀の魅力は微増しているように思う。渋すぎてやや退屈に感じる部分がないではないが、ラスト50ページ辺りからの筆力は冴えまくっていて爽快の域だった。「快作の基準を軽くクリア」との言葉に異論なし!2020年になってもル・カレの新作が読める幸せを噛み締めたい。長生きして下さいね。2020/07/17
しゃお
39
ル・カレなのに読みやすいとの言葉に誘われ久しぶりのル・カレ。ストーリーは割合シンプルながら、集中しないと文章の繋がりを見失いそうになる所はやはりル・カレらしさが。ところでナットとナットに接する人達は何故か男女問わずに惹かれ合っているかのように見え、その辺りが気になりつつ読み進めると、著者の紡ぐ言葉と空気感、そして見えていたものがひっくり返るところに快感を覚えます。ラストのその先は決して幸せな結末は待っていなさそうだけど、ナットの決断と行動は潔さと希望に満ち、ナット達の幸せを願ってやみませんでした。2020/12/28
本木英朗
31
英国の現代スパイ小説の巨匠こと、ジョン・ル・カレの長編のひとつである。もちろん俺は、今回が初めてだ。英国SISのベテラン情報部員ナットは、ロシア関連の作戦遂行で成果をあげていたが、引退の時期が迫っていた。折しも英国内ではEU離脱で混乱し、ロシア情報部の脅威も増していた――という話から始まる。最後の最後まで、本当に凄かったよ。さすがは巨匠である。ちなみに2020年12月に巨匠は亡くなった。というわけで、引き続き遺作も読もうと思う。2022/08/16
tetsubun1000mg
24
御年88歳と思えない、深い味がにじみ出る小説。 20年位前米ソ冷戦時代のスパイのお仕事を織り交ぜながら、なんとブレクジット目前のUKを舞台に現代に生き残る老スパイがお国のためにもう一仕事仕上げようとする。 前半と中盤で全く変わった展開となり、終盤で主人公は窮地に陥ってしまう。 そのやり取りもスリリングで大変面白い。 ベテランでなければ書けない深みですね。 派手なアクションなどはないのに国同士、組織の中の人間同士の丁々発止のやり取りを楽しませてくれる。 英国人のしゃれた会話、ロシア人の武骨な会話も面白い。2020/09/17