出版社内容情報
1937年の大みそか、マンハッタン。タイピストのケイトとルームメイトのイヴは、バーで居合わせた若き銀行家ティンカーと友達になる。この出会いをきっかけに、3人の人生は大きく動き出す──戦間期のニューヨークのきらめきの中で過ごした3人の、1年間の物語
内容説明
1937年の大晦日、25歳のケイティはルームメイトのイヴと訪れたグレニッチ・ヴィレッジのジャズバーで、若き銀行家ティンカー・グレイと出会う。紳士的でチャーミングな彼との偶然の出会いは、つましく暮らしていた読書好きのケイティを、ニューヨークの上流社会への旅に導くことになる。ニューヨークの四季、そして30年代に生まれた文学や音楽の名作とともに綴られる、友情と恋愛、自尊心と臆病さが織りなす人間模様の行方は…。ベストセラー小説『モスクワの伯爵』の著者エイモア・トールズのデビュー長篇。
著者等紹介
トールズ,エイモア[トールズ,エイモア] [Towles,Amor]
1964年、ボストン生まれ。イェール・カレッジ卒業後、スタンフォード大学で英語学の修士号を取得。20年以上、投資家として働いたのち、現在はマンハッタンで執筆に専念している
宇佐川晶子[ウサガワアキコ]
立教大学英米文学科卒、英米文学翻訳家。訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケロリーヌ@ベルばら同盟
74
大恐慌の暗雲が未だ庶民の生活に影を落し、欧州の戦火が遠雷となって響き寄せるマンハッタン。見上げる摩天楼に輝く人造の宝石、天を衝くビルの狭間に瞬く星々。ロシア移民で、港湾労働者として生涯を終えた父の遺した大量の本が唯一の財産で、秘書として倹しく暮らすケイティと、米国中西部の裕福な実家からの援助を拒み、下宿屋でケイティと部屋をシェアする野心家で、美人なイヴ。二人の娘は大晦日の夜、場末のジャズバーで、若き紳士に出会った。豊潤な文学の香り、音楽の旋律、夢と野望の街。この作品は地図を手元に読み進める事をお励めする。2022/04/26
Panzer Leader
63
「モスクワの伯爵」の作者のデビュー長編作。1937年大晦日のニューヨークで、本好きの秘書ケイティとルームメイトのイヴは魅力的な青年ティンカーと知り合った。この三人の若者達の友情・恋愛・仕事・巡り会う人々を、誰もが惹きつけられる街ニューヨークの描写とともに描かれる青春小説。落ち着いた年齢になってしまった自分には彼らの生き様がとても眩しく感じる。2021/01/20
seacalf
50
読書の醍醐味を思う存分味わわせてくれた『モスクワの伯爵』のエイモア・トールズのデビュー作。1930年代のニューヨークを舞台にはち切れんばかりの若さと才覚を発揮しながら冒険を繰り返し、成長を続けるケイティが好ましい。全編にわたってウィットに富んだ会話で埋め尽くされている。ティンカー、イブ、ウォレス、本を閉じても忘れがたい人物達が生き生きと描かれている。煌めく世界に退廃的なアクセントが絶妙で独特の雰囲気。今回は今一つ乗り切れなかったが『モスクワの伯爵』でめろめろにしてくれたので、今後が楽しみな作家の一人だ。2020/07/30
星落秋風五丈原
33
本書には誰も悪者がいない。皆ウィークポイントを持っているし欠けたる部分も持っている。相手を金で思うままに操っているだけで良しとしていたはずの名流夫人は、いざ彼が去ろうとすると、みっともない焦りをスマートな言葉に包みながら恋敵を牽制する。偶然の出来事で恋を得た女性は、恋敵を遠ざけたにも関わらず、絶好のチャンスをなぜだか不意にする。売れない絵を描き続けてきた男性は、他人にタバコをたかるほど困窮していながら、兄弟から与えられる金を燃やして去っていく。誰でもいっときは賢者になるが、その他大勢の期間は愚者にもなる。2020/08/13
たま
30
1966年、50代のケイトが1938年、波乱の20代を振り返る。冒頭で現在の状況が明かされているので、「なぜそうなったのか」という謎解き要素もあり、30年代ニューヨークの光と影の描写も楽しく、頁を繰るのがもどかしい思いで読んだ。最後のケイトの言葉、選択は「喪失を明確にする手段」が心に響く。登場人物たちは皆、アメリカ人らしくニューヨーカーらしく自分の意志で選択する。その選択が(小賢しい世間知から見れば)失敗と見えようとも、彼らの人生は鮮やかな印象と余韻を残す。19世紀的小説の伝統に棹さす不思議な作品である。2020/10/09