内容説明
3Dプリンタが驚異的進化を遂げ、建築物から料理まで直接出力出来る未来。禁断の実験に手を染めるため地球を脱出したファナティックな12人の科学者は、火星と木星の間の小惑星帯にコロニーを建設していた。“始祖”と呼ばれる彼らに産み出された“二世”の虹、霧、針、そしてその下の“新世代”を含む4人は、コロニーを離れ自らの“巣”を建設していた。あるとき虹は、母星の地球から威圧的に近づいてくる巨大構造物に圧倒される。虹たちは対策を検討するため7年ぶりに“始祖”と再会するが、それは過去に2名の“二世”を失った事件に端を発する確執の再燃でもあった―未来的閉塞環境で己の存在意義を失った異形の若者たちの惑いと決意を描く本格宇宙SF。
著者等紹介
倉田タカシ[クラタタカシ]
1971年埼玉県生まれ。文筆業・漫画家・イラストレーター。第2回ハヤカワSFコンテスト最終候補作となった『母になる、石の礫で』で、単行本小説デビューを果たす(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みっちゃん
73
今回のハヤカワSFコンテストの3作品中、一番心惹かれた。驚異の進化で、食料や身体までも複製する高性能3Dプリンタ。地球を脱出した研究者に、その機器で実験的に産み出された少年少女達。機器を「母」と呼び、美しくも異形の外見の彼らの、同胞を思いやる気持ち、自分達を実験材料としか見ない「始祖」への複雑な思い、見果てぬ地球への恐れと憧れ。ハードSFの外観の中心には、痛々しくも純粋な青春の物語があった。2015/05/19
miroku
22
デザインヒューマンが主人公のサイバーパンクとでも言えば良いのか・・・。この作家のみならず、SFは新しい天地を創造しつつあるようだ。通過儀礼の物語は甘く切ない後味を残した。2016/06/25
月世界旅行したい
15
ブルース・スターリングのスキズマトリックス的な身体改造SFかな。2015/03/21
なしかれー
12
3Dプリンタが劇的に進化した未来の話。建築物から食べ物、身体まで出力できるようになった技術を用いてポストヒューマンを生み出そうと地球を飛び出した始祖。生み出された二世、新世代の反抗期的青春小説。語り手である虹の精度や都市に対する拘りが気になりながら、うまく咀嚼出来なくて悔しい。彼らの幸せはどこにあるのかな。2015/05/23
アイカワ
8
読友さんが絶賛しているのをみて読みたくなった次第。ほんとその通りでむちゃくちゃ良かった。古い世代からの離脱は希望の国のエクソダス、あやふやな未来への不安は浅野いにお漫画、そして言葉はライ麦畑で捕まえての切実さに似ている。SF的ガジェットで言えば市川春子の短編を思い出した。起点も曖昧で、存在理由も曖昧で、寄る辺もない彼らの、生きていく活力に心震えた。泣く。2016/08/06