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内容説明
古典文献学の教師ライムント・グレゴリウス。五十七歳。ラテン語、ギリシア語、ヘブライ語に精通し、十人以上の生徒と同時にチェスを指せる男。同僚や生徒から畏敬される存在。人生に不満はない―彼はそう思っていた、あの日までは。学校へと向かういつもの道すがら、グレゴリウスは橋から飛び降りようとする謎めいた女に出会った。ポルトガル人の女。彼女との奇妙な邂逅、そしてアマデウ・デ・プラドなる作家の心揺さぶる著作の発見をきっかけに、グレゴリウスはそれまでの人生をすべて捨てさるのだった。彼は何かに取り憑かれたように、リスボンへの夜行列車に飛び乗る―。本物の人生を生きようとする男の魂の旅路を描き、世界的ベストセラーを記録した哲学小説。
著者等紹介
メルシエ,パスカル[メルシエ,パスカル][Mercier,Pascal]
スイスの作家、哲学者。1944年6月23日、ベルン生まれ。本名ペーター・ビエリ。本業はベルリン自由大学の教授で、専門の哲学研究を生かして小説を執筆してきた。2007年には、定年により教授職を引退し、著述業に専念している
浅井晶子[アサイショウコ]
ドイツ文学翻訳家、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程認定退学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
82
閉鎖的な環境に満足しギムナジウムに勤めていたグレゴリウス。ふとしたきっかけからプラドの本に出会い、彼を追う旅に出る。それは、内面世界への深淵な鉄道の旅、人生という長旅がそこに重なってゆく。「あなたの旅が、内的な意味でも外的な意味でも、あなたをほんとうに目指した場所へと導いてくれることを」—言葉、濃厚な物語、哲学などがぎっしり詰まり、著者の魂、理性、心が通った充実作。人生のどんな瞬間にも興味はすべてに対して開かれている、人は皆「開かれた未来のモーツァルト」なのだから。長旅の最後のトンネルがくるその時まで。2020/02/10
藤月はな(灯れ松明の火)
82
映画『リスボンに誘われて』を観て原作にも興味を持ったので読みました。夏目漱石氏の『こころ』同様に歳を経て読み直す度に琴線に響く箇所が異なるだろう本。原作を読んでも映画を観ても矛盾を抱えても己や人に誠実であり続けたアマデウは人間らしくもありながらも人間らしくない印象。私には、人間としての生き方の理想の体現者でもあるアマデウは好きにはなれないが、同時に嫌いにもなることも難しいので狡いとしか思えない。グレゴリウスという有り得たかもしれないアマデウの映し身と相対することで彼の呪縛を人々がどう、処理したかが印象深い2016/06/05
南雲吾朗
74
人生の転機というのは何がきっかけになるかはわからない。ある女性のポルトガル語の響きから偶然手にした本の作家の人生を追う旅に出る。小説の中に出てくる本(アマデウ・デ・プラドの本)は、本当に素晴らしい。本当に読みたくなるようなことばかり書いてある。特に「死を想え」を記述した個所は魂が震える。アマデウの綴る文章を読むと目から鱗が大量に落ちる感じがする。本当に素晴らしい小説。あとがきにも書いてあったように「言葉、物語の密度、哲学、すべてが詰まった本」である。とにかく、絶対お薦めの本である。2020/01/23
nobi
68
魅惑的な光に満ちたリスボンも、オリエントの響きを持つ言葉もパライソ的なのに、反体制派への拷問を厭わないような体制が続いたポルトガル。“レジステンシア”のシューベルトを弾いていた手には火傷の痕が残る。その友人であったプラドの言葉は、崇高な響きありながら問い詰め方が重苦しい。繊細で何事も揺るがせにしない性格に加えて、医者の倫理的で卓越した腕が体制派の中心人物と関わってしまったことでの苦悶もあったからか。その言葉がラテン語ギリシャ語ヘブライ語のギムナジウム教師グレゴリウスをリスボンへと突き動かす。胸に迫る展開。2024/09/21
たーぼー
54
まずこのタイトルに惹かれた。『リスボン』というまだ見ぬ街とその名前に神秘的な幻想を抱いてしまうからか。哲学的示唆に富んだ内省的展開に困惑する部分もあったが、そこに殺伐とした日常では思いもよらない響く言葉が隠されており、何だか自分の中の言葉にならぬ苦痛を代弁しているようでグッとくる。グレゴリウスのように誰しもが夜行列車に飛び乗れるわけじゃない。他人の生き方の轍を踏んでも答えは見い出せないかもしれない。それでも生きたいように生きる人、己にそして他者の魂に対話する人は美しいし、この世界観にずっと身を委ねていたい2015/10/13