内容説明
三十歳のケマルは一族の輸入会社の社長を務め、業績は上々だ。可愛く、気立てのよいスィベルと近々婚約式を挙げる予定で、彼の人生は誰の目にも順風満帆に映った。だが、ケマルはその存在すら忘れかけていた遠縁の娘、十八歳のフュスンと再会してしまう。フュスンの官能的な美しさに抗いがたい磁力を感じ、ケマルは危険な一歩を踏み出すのだった―トルコの近代化を背景に、ただ愛に忠実に生きた男の数奇な一生を描く、オルハン・パムク渾身の長篇。ノーベル文学賞受賞第一作。
著者等紹介
パムク,オルハン[パムク,オルハン][Pamuk,Orhan]
1952年、イスタンブル生まれ。トルコ初のノーベル文学賞作家。コロンビア大学教授。イスタンブル理工大学で建築を学んだ後、イスタンブル大学でジャーナリズムの学位を修得。その後、コロンビア大学客員研究員としてアメリカに滞在した。1982年発表のデビュー作『ジェヴデット氏と息子たち』(未訳)がトルコで最も権威のあるオルハン・ケマル小説賞を受賞。その後に発表した作品もトルコ、ヨーロッパの主要文学賞に輝き、世界的な名声を確立する
宮下遼[ミヤシタリョウ]
東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学、日本学術振興会特別研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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どんぐり
91
婚約者がいながら、18歳の美しい女性に魅かれていくイスタンブルの実業家。婚約者を捨てるほどにのめり込み、やがて相手の持っていたものに耽溺していく。思い出が残る品々を口に含み、あるいは肌に擦りつけながら彼女を想って涙に暮れる男の懊悩する日々がグダグタと語られる。パムクの描くフェチっぽく倒錯した男の偏愛物語、下巻へ続く。2021/10/24
長谷川透
28
再読。オルハン・パムクはトルコの作家であるが、彼はトルコという国を遠い視座から書く作家である。イスラム圏にありながら飲酒に寛容であるなど、中東諸国から見ると異色のイスラム国である。この小説はヨーロッパから見れば非西洋圏であるこの国の若者たちのイスラム=トルコ的な伝統からの「目醒め」を描き、ケマルとフュスンのアバンチュールを中心に据えて語ることで、トルコの近代における葛藤を見事に描いている。特に主人公ケマルは伝統的な柵を蔑んでいるように見えて、実のところ、その柵の中から脱却する度胸がないようである。2012/10/31
秋良
17
七十年代のイスタンブール、婚約中の金持ち息子が年下女子と浮気するところから始まるメロドラマ。に、西洋的価値観とイスラム的価値観の狭間で揺れる当時のトルコの人々の様子が垣間見れる。トルコ人の恋愛は暑苦しいって聞いたことがあるので、浮気相手に去られて読み手が引くぐらい悶々とするのは国民性もあるのかも。まあ自分の婚約式に浮気相手を呼ぶのはどこの国でもクズの所業だよ(笑)2019/09/22
gogo
15
イスタンブールが舞台の小説。上流階級の30男が、遠戚の娘に恋し、それが原因で婚約者と破局する物語。恋煩いで奇行に走る主人公の姿は、客観的に読めばバカとしかいえない。一方、恋の病は誰にとっても心身をボロボロにする危険を孕んでいることを、執拗に見せつけられた感がある。この本で描かれる1970年代のイスタンブール上流階級はかなり世俗化している。しかし、伝統的価値規範やイスラームが絡んで、完全な自由恋愛はできないし、女性の立場はかなり弱い。西洋っぽく見えても、そうでないトルコの社会と人々の姿も垣間見える。2015/12/06
umeko
13
婚約者がいるくせに、若くて美人な女性と恋に落ちちゃう男。この男、かなりグダグダと独り言を言いながらも、どのような決断を下すのか楽しみながら上巻を読了。舞台となっている1970年代のトルコの風景に、日本人ながらも郷愁を感じさせる美しさがありました。2011/03/29
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