内容説明
かつては共産主義者の同志として、そしてなによりも深い愛情で結びついていた夫婦バーナードとジューン。なぜ、彼らは突然破局を迎えたのか?私は義理の両親にあたる二人の人生に強い興味を抱き、回想録にまとめるため、独自に真相を探りはじめた。二人から話を聞くうち、やがて彼らが袂を分かった背後に“黒い犬”の存在があったことが判明する。犬の姿を借りた“悪”に出会い、すべてが変わったと主張するジューン。悪の象徴など、ジューンの妄想にすぎない、と一笑に付すバーナード。“黒い犬”は実際に存在したのか?それともジューンが生みだした想像の産物なのか?私は彼らの人生を影のように覆う“黒い犬”の真実を追究するが…。ヨーロッパ戦後思想史を背景に、鬼才が夫婦の魂と愛の軌跡をサスペンスフルに描く。イギリスでベストセラーを記録した、ブッカー賞作家による注目の長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
73
マキューアン8冊目。ジューンとバーナード夫妻は共産主義者として共に人生を歩みはじめ、やがて袂を分かつ。バーナードは才能に恵まれた昆虫学者。ジューンは、2頭の黒い犬の姿を借りた“悪”と出会ったのをきっかけに、「1匹の黒い犬が個人の抑鬱の象徴であるなら、2匹の犬は文化的抑圧、文明社会そのものが鬱状態の現われだ」という考えに取り憑かれ隠遁生活に入るも、重い病気に罹る。これを義理の両親の回想録にまとめる主人公を据えて描いた物語。黒い犬の何を悪の象徴として見立てているのか、わからないままに読み終える。2017/03/21
NAO
67
【戌年に犬の本】登場人物が本当にあったことなのかどうかわからないあいまいな出来事について語るという手法は、この作者がよく使うもの。彼にしては珍しい政治色の強い話だが、その政治と夫婦の愛情との関連性、別居していながらも互いに愛し合っていたという複雑な夫婦の関係が、あまりよく分からなかった。戦争の跡を残しているらしい気配も感じさせながらの不気味な不安感が、いかにもマキューアンらしい。2018/02/21
Foufou
8
第二次世界大戦とそれに続く冷戦という状況において決定的に傷を負った欧州。共産党員として結ばれた夫婦のその後を描き、恢復のあり方を示した野心作ではある。帯には謎解きを仄めかす文言が踊るが、ミステリーとしての面白さはほぼ皆無。かなり観念的。最後の最後、黒い犬の正体が明かされるが、評価は分かれるかもしれない。黒い犬のおぞましさが、「胸糞」までには至らないのが瑕疵なのか。初期のマキューアンが固執したアノーマルな性が、いまや陳腐に成り下がったという現実。とまれ、こういう作品も書いていたのかという感慨はひとしお。2024/07/27
tom
7
若い二人が共産党がやっているサークルで知り合う。結婚して、新婚旅行に行く。そして、徒歩旅行を始めたのだけど、その途中で、妻は「黒い犬」を見る。妻は、その「黒い犬」に悪の本質を見てしまい、共産党から離れる。その後、二人は、イギリスとフランスに別れて暮らし・・・・・。と、こんな風に書いてしまうと、なにやら訳の分からない物語。まあ、最後まで訳の分からない話が続くのだけど、それでも、この二人は、お互いのことを気にかけ、たぶん愛し続けていたらしい。不思議な物語だけど、さいごまで読ませてしまう。2015/11/12
桜子
6
1946年ジューンは新婚旅行先のフランスで獰猛な黒い犬に遭遇し、霊的な光に包まれ啓示を受けたと思い込むことにより危機的状況から脱する。同時に共産主義の同志として固く結びついていた夫バーナードとの仲に亀裂が走る。その後40年以上に渡って夫婦喧嘩をつづけ、その終局には娘婿ジェレミーを挟み、ときには彼の脳内に憑依して、ひたすら議論を戦わす。神秘と懐疑、性差の境界で繰り広げられる弁舌合戦が面白い。〈菩提樹亭〉で村長が語る戦中に暗躍したアントワネット・ラインの懐古話に至ると、作者特有の暗黒面がつかのま顔を覗かせる。2012/03/21
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