内容説明
ソロモンは飛んでいった。ソロモンはいってしまった。ソロモンは空を突っ切っていった。ソロモンは故郷に帰った。アメリカ中西部の町に生まれ育った黒人青年ミルクマンは、伝説の歌のごとく自由と幸福を手にすることができるのか。はたして旅の果てに何を見出すのか。生と死の幻想を鮮烈に描く、ノーベル賞作家トニ・モリスンの代表作。全米書評家協会賞&アメリカ芸術院賞授賞作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
49
中心となるのはミルクマンの物語なのでしょう。愛されて、でも「気軽に」生きていきたいと彼は言う。けれども行為には責任が伴うもの。それを知らなければ誰かを愛することも人生を本当に「生きる」こともできやしない。家族の歴史を追いながらそれを学んでゆく彼の物語に、両親や叔母、祖父たちの物語が絡み、父と子、誇り、夢、人生を、命を「生きる」ことを歌う、豊かな神話を読んでいるようでした。ソロモンの歌は語る、辛く悲しい現実と共同体の夢を。その二つの間で自身の可能性と責任に向き合うことが、生きるということなのかもしれません。2019/12/29
いちろく
20
米国中西部の町に生まれ育った主人公ミルクマンを中心とした群像劇。ミルクマンの人生録の体裁をとりつつも、人種差別や社会情勢をはじめ色々な要素も絡み、一筋縄ではいかない内容。物語の本質に何処まで迫れたかわからないけれど、全体を通じて意識させられたのは不思議と、生。 2021/09/15
algon
13
著者3作目だが370p2段組の長編。様々な設定と巧みな伏線で物語性が強い文学として仕上がっていて、当然ハードな読み応えだったが楽しめたかと思う。ミルクマンと呼ばれる男は不仲の両親、父のやはり不仲の謎めいた妹パイロットらの環境の中で育ち、その孫ヘイガーとの肉体関係も楽しんでいた。父と叔母の故郷の金塊を探しに南部に向かいそこで祖父母達の様々な事実を知ることになり…。元奴隷の文盲黒人が歩んだ道を探る孫は発端が欲からとは言え次第に祖先の謎を解き明かし生きる縁を得ていく…。膨大な奥行きや時間を感じさせる傑作ではと。2022/06/24
カイエ
10
読み友さん推薦本。黒人青年ミルクマンの三十数年間の物語。なんだけれども、家族をはじめとする周囲の人物それぞれの人生が要所要所で語られるため、その数倍の時間が流れたような感覚を味わった。人種差別的な要素は控えめで、対白人というよりも黒人世界のなかでの線引き(南北、貧富、肌の色の濃さ…)や、人間が抱える普遍的な問題(家族、性差、自立…)など、多くの要素が織り込まれていた。これだけたくさんのことを詰め込みつつ、叙事詩のように美しく仕上げるモリスンはすごいや。紹介してくださった読み友さん、ありがとうございました。2021/04/10
おでんのたまご
6
資産家の黒人の家庭に生まれたミルクマン。不仲の両親の板挟みになり町の黒人コミュニティからも少し浮いた存在の彼が自身のルーツに探りはじめる。両親やパイロットから少しずつ語り明かされる秘密や、”シュガマンは飛んでった”の歌など謎めいた雰囲気がありとても良かった。『ある決まった男の人なしでは、いけていけないというような女性』は愚かなのだろうか。ずっと考えている。2024/06/02