内容説明
二人の貴族が出会った。一人は２５歳、一人は８３歳。時と場所を越えて奇妙に符合する二人の人生を通して２０世紀英国ゲイ社会の歴史の仮面を剥ぐ一大問題作。サマセット・モーム賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
122
同性愛もの、特にゲイ小説が少し苦手なのは、男性が男性に対する肉体的欲求や衝動、外見を愛でる様があからさまだから。異性感では、もう少し心根とか思いやりとかを愛することも多いと思うのだ。相手の写真でも淫らな物が多いような気がする。だからこの作品も、ああまたか…となりかけたところで、その奥にある考察に引き込まれた。チャールズの若い頃の日記は、SM的な所はキツくて多少読み飛ばしたが、ウイリアムの思索が興味深い。ドギツさが前面にでているにしてもだ。最後の数行は、まったくほんとに…とあきれてニヤリとしてしまった。2017/01/17
まふ
100
ゲイによるゲイのためのゲイの小説、とでもいえそうだ。外側からの知識しかなかったのでその内側からのありのままの「綿密な」姿を知った。という程度の意義であろうか。どちらかと言えば、さらりと「流し読み」したような感覚であった。新たな知識はいくつかあったものの、何といっても隠語、スラングの原語傍記が面白かった。と言ってさらに突っ込んで原語版を読みたいとは思わない。G544/1000。2024/06/23
NAO
53
ロンドンに住む裕福な青年のセックスライフを描いた作品。彼は、毎日のようにクラブのジムで身体を鍛えたりプールで泳いだりしている。主人公には黒人の恋人がいるのだが、それでも、ときに、衝動を押さえきれずに公衆便所に誰かを漁りに行かずにはいられない。そうやって出かけていった公衆便所でなんと行為中に心臓発作を起こして死にかけた老人を助けたことから奇妙な展開に。この作品は初めてゲイのセックスライフを赤裸々に描いた歴史的小説。話とは直接関係ないが、老男爵はアフリカ時代にイーブリン・ウォーと知り合いだったという設定。2023/07/18
星落秋風五丈原
29
【ガーディアン必読1000冊】1983年ロンドン。オックスフォード卒の二人の貴族が出会う。一人は25歳ウィル。祖父が上院議員で裕福なため、仕事を辞めても生活に困らない。目の保養をするのとロックオンが目的でスイミング・プールに通っている。ある時ハッテン場であるトイレで倒れている所を人工呼吸で助けたのが縁で83歳のナントウイッチ卿と知り合った。彼から伝記を書いて欲しいと頼まれ、ウィルは乗り気でないが、建築辞典を作るスタッフも辞めてスイミングプールと自宅の往復だけの単調な日々が変わると友人のジェイムズは大賛成。2022/11/13
Э0!P!
3
ハッテンバの公衆便所で蘇生した老人から、肉欲に溺れる彼の耽美な半生を編纂してもらいたいと奇妙な依頼を受けるウィリアム。試しに渡された大量の日記によって、ウィリアムの生活は、肉体(スイミングプール)と精神(ライブラリー)の生活に分裂する。(※題名はそういう意味ではないが。) 老人の人生が奇妙な平行線を辿り、ウィリアムはのめり込んでいく。そして最後明らかになるゲイたちの悲痛な歴史に悶絶する。終盤の運びが秀逸なのと、身体の見せ方が上手なのとで、間違いない傑作。2022/10/08
